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格付け会社は信用できない?ビジネスモデルと情報の使い方を徹底解説!

難易度:

執筆者:

公開:

2024.01.07

更新:

2024.09.05

基礎知識債券投資インカムゲイン制度

目次

格付けの役割

①「投資家と発行体の間の情報のギャップ(情報の非対称性)」を解消する。

②投資家は、格付けを活用することで「情報の収集や分析にかかるコスト」を削減できる。

③複数の債券を一元的に比較することで、利回りの妥当性を判断する「価格発見」機能

格付けの評価基準について

1.投資適格:AAA格からBBB格

2.投機的:BB格からCCC格

3.デフォルトまたはその直前:CC格以下

緊急時を想定しておくストレスシナリオとは?

ストレスシナリオ例:S&Pの事例

BBB格のストレスシナリオ

他格付け機関のストレスシナリオ

格付け機関のビジネスモデル

1.サブスクライバーズペイモデル

2.イシュアーズペイモデル

各モデルのメリット・デメリット

格付け機関は信頼性をどう担保したか

サブプライムローン危機

サブプライムローン問題の背景と影響

証券化のメカニズムとその落とし穴

格付け機関の役割とその失敗

各国政府による格付け会社規制導入

格付機関のレポートについて

個別企業への格付け維持・変更

格付け機関のレポートをどう読むか

①その発行体のどういうところを重視しているかを把握しておく

② ウォーニングに注意

③ 格付け変更後のアウトルックに警戒

④ コメントにも着目しよう

⑤ 株式市場からのメッセージも参考に

過去のデフォルト事例と格付け機関からのシグナル

格付け機関のアクション事例:マイカルの場合

まとめ

商品やサービスを第三者が評価する「格付け」は幅広い分野で行われています。しかしここでは社債に対する格付けに焦点を当てて説明していこうと思います。社債への投資を考えている皆さんの中には格付け、そして格付け機関について耳にしたことがある方は多いことでしょう。

しかし、その役割についてご存知の方の中には「どこまで信じて良いんだろう」と思われる方もいらっしゃるでしょう。格付け機関の役割を「市場のゲートキーパー(門番)」とも呼ぶことがあります。市場の公平性、効率性を守るように勤めている番人、ということです。

しかし常にその役目を果たしてきたか、というと必ずしもそう断言できないのも事実です。過去の歴史を振り返れば「格付け機関なんて信頼できない」と批判を受けたことも一度や二度ではありません。

この記事では格付け機関の評価基準などを紹介し、過去の失敗も振り返りながら、現在の公的機関による規制の枠組みがどうなっているか、なども見ていきたいと思います。そして、格付け機関が発信する情報を個人投資家はどう理解して実際の投資判断に活用できるのか、という点について説明したいと思います。

格付けの役割

格付けには以下の3つの役割があります。

①投資家と発行体の間の「情報のギャップ(情報の非対称性)」を解消する。 ②投資家は、格付けを活用することで「情報の収集や分析にかかるコスト」を削減できる。 ③複数の債券を一元的に比較することで、利回りの妥当性を判断する「価格発見」機能

それぞれを簡単に説明します。

①「投資家と発行体の間の情報のギャップ(情報の非対称性)」を解消する。

投資家は発行体のことをよく知りません。両者の間にたち、発行体の情報をわかりやすく、比較しやすい形で伝えるのが格付です。

②投資家は、格付けを活用することで「情報の収集や分析にかかるコスト」を削減できる。

投資家は格付利用で、自ら調べ分析するコストを節減できます。

③複数の債券を一元的に比較することで、利回りの妥当性を判断する「価格発見」機能

一般に、全ての社債の利率はリスクフリー資産(日本の投資家であれば日本国債)の利率に対して、何がしかのスプレッド(上乗せ金利)をおくことで決定されますが、このスプレッドを決めるにあたり、大きな要因が当該発行体の信用度です。そしてそれを格付け機関が評価し、アルファベットで表現したものが格付けです。

格付けの高い債券ほど返済される確率が高いと判断され、スプレッドが低くなり、格付けが低い債券ほど返済されなくなる危険性とみなされ、高くなります。発行時のスプレッドだけではなく、発行後でも格付けが変動すればそれに応じて流通市場で利回りが変動します。より具体的には格付けが下がれば債券価格が下落(利回り上昇)し、上がればその逆となります。

(参考:日本で登録された格付け機関の仕組みと特徴を徹底解説

格付けの信頼性が社債市場が機能する上で重要な役割を担っていることがご理解いただけるかと思います。ただし、格付け機関も所詮は人間ですので、いつも正しい判断をしているとは限りません。 昨日まで投資しても大丈夫(投資適格、といいます)、としていた債券が翌日デフォルト、となったり、AAAという最上級に評価していた債券が次の日には大きく評価を下げました、ということも残念ながら過去には起きています。その最たる例が、後述しますがサブプライムローン危機です。

格付けの評価基準について

まず、国内で活動する格付け機関5社のうちから、国内系のR&I、そして外資系のS&P、Moody’sの格付けの定義をご紹介します。

格付R&IS&P(抜粋)Moody’s
AAA/Aaa信用力は最も高く、多くの優れた要素がある。債務者がその金融債務を履行する能力は極めて高い。S&Pの最上位の発行体格付け。信用力が最も高いと判断され、信用リスクが最低水準にある債務に対する格付。
AA/Aa信用力は極めて高く、優れた要素がある。債務者がその金融債務を履行する能力は非常に高く、最上位の格付け(「AAA」)との差は小さい。信用力が高いと判断され、信用リスクが極めて低い債務に対する格付。
A信用力は高く、部分的に優れた要素がある。債務者がその金融債務を履行する能力は高いが、上位2つの格付けに比べ、事業環境や経済状況の悪化の影響をやや受けやすい。中級の上位と判断され、信用リスクが低い債務に対する格付。
BBB/Baa信用力は十分であるが、将来環境が大きく変化する場合、注意すべき要素がある。債務者がその金融債務を履行する能力は適切であるが、事業環境や経済状況の悪化によって債務履行能力が低下する可能性がより高い。中級と判断され、信用リスクが中程度であるがゆえ、一定の投機的な要素を含みうる債務に対する格付。
BB/Ba信用力は当面問題ないが、将来環境が変化する場合、十分注意すべき要素がある。債務者は短期的にはより低い格付けの債務者ほど脆弱ではないが、高い不確実性や、事業環境、金融情勢、または経済状況の悪化に対する脆弱性を有しており、状況によってはその金融債務を期日通りに履行する能力が不十分となる可能性がある。投機的と判断され、相当の信用リスクがある債務に対する格付。
B信用力に問題があり、絶えず注意すべき要素がある。債務者は現時点ではその金融債務を履行する能力を有しているが、「BB」に格付けされた債務者よりも脆弱である。事業環境、金融情勢、または経済状況が悪化した場合には、債務を履行する能力や意思が損なわれやすい。投機的とみなされ、信用リスクが高いと判断される債務に対する格付。
CCC/Caa信用力に重大な問題があり、金融債務が不履行に陥る懸念が強い。債務者は現時点で脆弱であり、その金融債務の履行は、良好な事業環境、金融情勢、および経済状況に依存している。投機的で安全性が低いとみなされ、信用リスクが極めて高い債務に対する格付。
CC/Ca発行体のすべての金融債務が不履行に陥る懸念が強い。債務者は現時点で非常に脆弱である。不履行はまだ発生していないものの、不履行となるまでの期間にかかわりなく、S&Pが不履行は事実上確実と予想する場合に「CC」の格付けが用いられる。非常に投機的であり、デフォルトに陥っているか、あるいはそれに近い状態にあるが、一定の元利の回収が見込める債務に対する格付。
D/C発行体のすべての金融債務が不履行に陥っているとR&Iが判断する格付。債務者が全面的に債務不履行に陥り、すべて、または実質的にすべての債務の支払いを期日通り行わないとS&Pが判断する場合に付与される。最も格付が低く、通常、デフォルトに陥っており、元利の回収の見込みも極めて薄い債務に対する格付。
SDなし債務者がある特定の債務または特定の種類の債務を選択して不履行としたものの、その他の債務については期日通りに支払いを継続するとS&Pが判断する場合に付与される。なし
AAからCCCまでには上位に近いものにプラス、下位に近いものにマイナスの記号が付加。AAからCCCまでにはプラス、マイナスの記号が付加。AaからCaaまでの格付けには1から3の数字が付加

もっとも、この定義だけ読んでも抽象的で、ピンとこないと思います。 S&Pの定義が最も説明的ですので、そちらを例にとってもう少し詳しく見ていきましょう。

1.投資適格:AAA格からBBB格

AAA格からBBB格までを米系の格付け機関は投資適格、と呼びます。 S&Pの定義では債務者の金融債務の履行能力について、AAA格では「極めて高い」、AA格では「非常に高い」と表現しています。以下A格では「高い」、BBB格で「適切」と次第に下がってはいくものの、現時点での借金はちゃんと返すことができる、という水準です。言い換えれば、AAAからBBBマイナス(BBB格の最下位)まではデフォルト(債務不履行)までの距離がどれくらい遠いかを表現しています。

2.投機的:BB格からCCC格

②BB格から下は投機的とも呼ばれ、ネガティブな表現が増えてきます。まず、BB格からCCC格までの定義を見てみましょう。 BB格以下では、債務者の能力への評価だけではなく、外部環境についての評価の合わせ技になります。 BB格は、債務者は「高い不確実性や(略)脆弱性を有して」おり、状況(経済環境、との趣旨です)次第で「履行能力が不十分となる可能性がある」とされます。 B格はその時点では債務履行能力は有するもののBB格より脆弱で、環境が悪化するとその能力と意志は失われやすい、との評価です。 CCC格になると、債務者は「脆弱」で返済できるかどうかは良好な外部環境に依存しています。 ここまでを要約すれば、BB格ではまだ距離はあるものの、デフォルトがある程度意識されるようになった段階ですが、CCC格となると、少し環境が悪化すればデフォルトに至る懸念がある財務状態にある、との評価だ、ということです。デフォルトまでの距離がどれくらい近いか、の評価と言い換えても良いでしょう。

3.デフォルトまたはその直前:CC格以下

CC格から下ではデフォルトしてるか、その直前との評価です。 なお、このあたりの格付けの定義は各機関で異なる部分もあり、たとえばS&PはSD(Selective default、選択的デフォルト)という格付けを設けて債務者が債務の一部だけ不履行とした場合に付与しています。

法的再生手続き(日本であれば民事再生法申請など)に入ると、全面的デフォルトと認定しやすいのですが、法的手続きによらない事業再生を採用となると、たとえば銀行からの借入のみ減免を受けて社債はそのまま返済を続けるということもあるからです。

また、Moody’sはこのゾーンの評価基準をデフォルトした後に残余財産等でいくら回収できるか、においています。CC格だと企業清算時の配当などがそこそこ見込めるけど、C格だとあまり見込めない、というような運用にしています。

緊急時を想定しておくストレスシナリオとは?

上で、デフォルトまでの距離の遠い近いが格付けの違いになって表される、という趣旨を記載しました。 しかしデフォルトまでの距離、といっても経済が平常時であれば、AAAの企業もBBBの企業もデフォルトしないので、その差は明らかにはなりません。しかし金融情勢や経済状況が大きく悪化した時、財務が脆弱だったり何らかの問題を抱えている企業ほど生き残りが難しくなります。

ストレステスト、という言葉をお聞きになったことがあるでしょうか。平常時では想定できないような非常に大きなストレス(圧力)がかかった時にその組織や制度、あるいは金融商品が耐えることができるか、のテストです。

たとえば金融商品なら株式市場の大幅な下落、あるいは原子力発電所の場合、想定を上回る地震や津波が発生しても重大事故につながらないか、を検討します。また、どういう種類のどの程度のストレスがかかるか、をストレスシナリオ、と呼びます。

格付けの世界でも、評価対象(企業など発行体、あるいは証券)が非常に厳しい経済、金融環境に置かれても耐えられるか、ストレステストを想定します。S&PによればAAA格を与えるにはもっとも厳しい環境、たとえば1929年の米国でおきたような大恐慌でも耐えることが求められます。

ストレスシナリオ例:S&Pの事例

詳細についてS&Pの表現を引用します。

「AAA格に格付けされる発行体は極めて強いストレスシナリオに耐えて金融債務を履行しなくてはならない。」とあり、そのシナリオの例として1929年の大恐慌時なみのストレスだ、としています。

大恐慌時、アメリカの実質GDPは1929年以降の4年で26.5%減少し、株価は85%ダウン、失業率は33年のピークで24.9%に達するなど極めて厳しい経済状況に陥りましたが、それに匹敵するシナリオでも破綻しないことがAAAの発行体には求められます。

BBB格のストレスシナリオ

ちなみにBBB格のストレスシナリオとは、

「BBB格の発行体は、中程度のストレスに耐えて金融債務を履行することが求められる。」ここでの中程度とは実質GDPマイナス3%、失業率10%上昇、株価50%ダウン、だとしています。2000年代後半のサブプライム危機や1990年代後半の日本のバブル崩壊時がBBBのストレスに相当する、としています。

他格付け機関のストレスシナリオ

Moody’s、R&Iについてはこのような記述を見つけられなかったので紹介できませんが、何がしかの基準をもとに最上級を定義し、そこからの相対感でAA格以下の符号を決定していると思われます。

なお、国内系と外資系の格付け機関の符号を見比べる際、一点留意が必要なのは国内系の場合、日本国の格付け(ソブリン格付け)をAAAないしAA+としているのに対し、外資系はA+/A1としています。 少数の例外はあるものの、一般に日本企業の格付けが日本国の格付けを上回ることはないため、外資系ではほとんど全ての企業がA+/A1以下になっています。特に上位の国内系格付けと単純に比較しにくくなっています。

格付け機関のビジネスモデル

ここでは格付け機関のビジネスモデルについて見ていきましょう。格付け機関が主にどこから収益を得ているかによって二つのモデルがあります。

1.サブスクライバーズペイモデル

一つ目がサブスクライバーズペイモデルです。Moody’sやS&Pが格付け事業を開始した際、その収益源は格付け情報を欲する社債の投資家から得る購読料でした。

これは投資家からのニーズを満たすものでしたが、評価される側の発行体、特に低い評価をされた発行体からは反発も強かったようです。

2.イシュアーズペイモデル

しかし、そのうち自社をきちんと評価してもらう方が社債を円滑に発行するのに有用、と認識が改まったことで、格付け機関の調査に協力し、費用負担も受け入れられるようになりました。こうして発行体から手数料を得るのをイシュアーズペイモデルといいます。

これが1970年代に起きた変化で、今では各社の主な収益源は発行体からの手数料収入となっています。

格付機関は、発行体の依頼に基づき調査、分析した結果を格付けとして公表します。発行体は手数料を支払って調査に協力、格付けを投資家に提示します。自ら投資家に説明して回るより、格付けを提示する方が発行体にとってもコスト的にも有利になります。

投資家は格付けを基準に、当該発行体の債券にどの程度の利回りを求めるのか、判断します。これが大まかなビジネスモデルです。

各モデルのメリット・デメリット

イシュアーズペイモデルのメリットとしては、発行体の協力が得られることで、調査において公になっていない情報も含めて入手できるなどで分析の質向上が期待できます。

サブスクライバーズペイモデルでは、得られる情報は公知のものに限られます。また格付け結果は購読者しか得られませんが、イシュアーズペイなら一般にも開示できます。現在、我々が購読料を負担せずに格付けを参照できるのも、そのおかげです。

多くの専門知識を有したアナリストを雇用して分析にあたらせることができるのも、発行体からの手数料収入があるからで投資家からの購読料だけでは限界があります。実は日本にもかつて三國事務所という、サブスクライバーズペイモデルの格付会社があり、日本企業の情報を求める欧米投資家が利用していましたが、2009年に事業を終了しています。

もちろんデメリットもあります。最大のデメリットは収入を評価対象の発行体に依存することで潜在的に利益相反の問題を抱えていることです。以下では格付け機関が利益相反の問題をどう克服し、あるいは失敗し、その結果どのような規制が行われるようになったかをみていきたいと思います。

格付け機関は信頼性をどう担保したか

格付け機関への公的規制が始まるのは後述のように2000年代からですが、それ以前から格付け機関自身でもどうやったら信頼を勝ち得て、それを維持できるかを考え、実践してきました。

格付け機関の判断に影響力を及ぼしうる存在として考えられるのは、①発行体や有力投資銀行など社債発行に直接に関わる組織、②特定の大株主、③政府、です。

政府については後述しますが、前二者からの影響を排除するために、すべての格付け機関は格付け決定に際し、格付け委員会による合議制をとっています。仮にアナリストが顧客の圧力に屈して、甘い評価をしようとしても委員会で修正する仕組みとなっています。また営業部門の人間は格付け委員会に参加できないなど、営業と格付け部門とは遮断されています。

株主との関係で付言すると、1985年に日本に格付け機関を作る際に、うち二社は主として金融機関の出資で設立されたのですが、どの出資も5%を超えることがないように図られました。特定の金融機関が自分の顧客に有利な格付けをするよう、圧力をかけることを防ぐためです。残り一社は日経新聞が100%出資で設立していたのですが、新聞社もまた公正中立を旨とする媒体です。

その後、紆余曲折ありましたが現存する二社はやはり新聞社など情報関係の企業が最大株主となっています。BIG3の資本関係がどう形作られたかまでは知識がありませんが、情報サービス系の会社が大手株主となっている(Moody’sも上場前は大手情報サービス会社が筆頭株主)のは偶然ではないかもしれません。

もう一つ、格付け機関を自主規制させる要因として、発行体に甘い評価をした結果、その企業がデフォルトしてしまうと、それがトラックレコードとして残り、ひいてはあそこの格付けは信頼できない、との悪評になってしまうことです。どの格付け機関も、かつては自主的に、規制後は定めに基づいて過去の累積デフォルト率などを開示しています。

サブプライムローン危機

しかしそれでも格付け機関が間違えることはままあります。2001年に大手エネルギー会社のエンロンが破産申請をしたその直前まで、投資適格(BBB格以上)の格付けを付与していたことはその有名な事例です。また日本でも2009年に大手スーパーのマイカルが破綻した際、その個人向け社債に直前まで投資適格が付与されていました。(過去のデフォルト事例で、格付け機関のアクションがどうだったか、という点については後述します。)

サブプライムローン問題の背景と影響

これらは個別企業への格付けアクションの遅れですが、より深刻な事例として、2000年代に国際的な金融危機を引き起こし、政府による格付け機関規制に繋がったサブプライムローン問題についてみていきましょう。(なおここでは危機の原因や実相などは簡略化し、格付け機関がどう関わってきたか、に焦点を当てて記述しますことをご了承ください。)

サブプライムローンとは、米国の住宅金融市場で信用力の劣る顧客向けに貸し出された住宅ローンを指しています。定期的収入のない、あっても少ない個人への貸し出しなので何かあったら焦げ付くリスクがありますので、仮にこれらが銀行がそのまま保有している、あるいはBBなり、Bなり低評価の格付けで転売されていたとすれば、国際的な危機には至らなかったかもしれません。

証券化のメカニズムとその落とし穴

しかしここで用いられたのが証券化という手法です。ローン一件ごとの信用力が低くても、たとえば100本集めれば、7割がデフォルトしたとしても3割は返済される。その3割に相当する部分からのCFを優先的に受け取れる債券を作れば最上級の評価、AAAが付与できる、という仕組みです。さらに残った7割部分を集めて同じようにその上澄み部分を切り出して再組成してAAAを作り出す、ということも行われました。

こうして作られたAAAの債券は文字通り世界各国の金融機関が争って購入しました。しかし住宅バブルがはじけてみると、もとのローンの質が想定以上に悪化したなどの理由で、証券化商品の信用力も大きく劣化しました。昨日までAAAと評価していたものを翌日、一気にBBB、あるいはそれ以下に下げる、という泥縄対応に格付け機関も追われました。

困ったのは世界中の金融機関です。AAAという前提で購入していた債券が翌日にはBBBになりました、というので多額の評価損が発生します。体力があれば損を覚悟で売却して流動性は確保できますが、他所も似た状況なので買い手もみつかりません。

資金繰り難に陥ったベアスターンズはJPモルガンチェースに救済されましたが、リーマンブラザーズは破綻、AIGも公的管理に入るなど大手金融機関が破綻、あるいはそれに近い状況に至りました。

格付け機関の役割とその失敗

証券化の案件を格付け機関に持ち込んでくるのは、通常は投資銀行です。格付け機関が一件ごとにきちんと実査、審査し、これには高い格付けを付与できないとやっていればあるいは防げたのかもしれません。しかし(個別にはそういう例もあったかもしれませんが)、全体としてはそうなりませんでした。ゲートキーパーの役目を果たせなかった、というより放棄していました。

「マネーショート(原題The Big Short)」という映画には、投資銀行の社員が格付け機関に望んだ符号を早く出させるためにバスケットボールのチケットを渡した、といったエピソードが出てきましたが、後の米国政府による調査でも似たような話がいくつも報告されています。ここまでくると、単なる間違い、ではすまされず詐欺まがいの共犯者と言われてもしかたないかもしれません。

各国政府による格付け会社規制導入

もともと格付け機関の寡占状態、特にS&PとMoody’sのシェアが高いことへの問題意識から競争を促進させようと2006年には格付会社改革法が成立していました。これは格付け機関を対象とした初めての規制です。

しかしサブプライムローン危機の惨状を受けて、大手金融機関と並んで格付け機関にも米国のみならず世界各国の規制当局から強い批判が浴びせられました。米国では、2010年に成立した通称ドッドフランク法は金融業界全般にわたる改革法ですが、この中で格付機関も監督対象となります。EUでも2009年に規制がスタートしました。

ここでは日本の格付け機関規制と、それに対する格付機関の対応を見ていきましょう。2010年施行された改正金融商品取引法では格付け機関に、大別して以下の4項目の義務を負わせました。

① 誠実義務、 業務を誠実に行うこと

② 体制整備義務、格付けの品質管理や利益相反防止措置などの体制を整備

③ 情報開示義務、格付けプロセスの透明性向上のため、手法やデフォルト率などの開示

④ 禁止行為、利益相反につながる可能性のある行為、たとえばアナリストによるコンサルティングの提供の禁止など、です。

金融庁に登録した格付け機関は、これを受けて体制の整備に努め、また格付け提供方針や手法の開示などの情報発信も積極的に行うようになっています。

金融庁への登録格付け機関となったことで起きた重要な変化は監督機関(証券取引等監視委員会)による検査(実地検査、および書面による定期報告)が実施されることで、これまでの10年強の歴史の中で、一社あたり数回の実地検査がおこなわれ、S&P社の日本法人に対して業務改善命令が出されたこともあります。

一つ付け加えると、監督機関は個別の格付け判断には立ち入りません。格付けの過程が自ら定めた規則に則し、適正に行われていたか、を確認しています。個別案件にまで関与させてしまうと、たとえば国や国の機関の評価をネガティブにすることができなくなるという懸念をもたれ、逆に格付けの信頼性を損ねてしまうからです。

格付機関のレポートについて

各社の公表するレポートは無料で閲覧できるものと有料サービスとに分かれますが、ここでは無料で参照できる範囲のレポートに限定して記載します。

各社のHPには、各社のプレスリリースが過去に遡って検索できるほか、格付けの手法、格付け一覧などが閲覧できます。

日系二社のHPはメンバー登録をしなくとも閲覧可能ですが、Moody’sの場合、閲覧には最初に登録が必要で、ないと得られる情報が制約されます。

S&Pは閲覧できるプレスリリースが最近7日間に限定されるので、気になる企業の格付け変更のニュースがあったら早めにサイトをチェックするのが良いでしょう。

格付け機関が毎日公表するプレスリリースを内容から大別すると以下の4種類に分類されます

①個別企業への格付アクション(格付維持、変更、アウトルック変更など) ②個別社債への格付付与 ③(アクションには直接繋がらない)個別企業へのコメント ④業界の見通しなど

このうち、②についてはよほど特殊な債券への投資を考えている、あるいは保有しているのでない限り、注意を払う必要はないと思います。また③、④についてはここでは説明を省略し、①の個別企業へのアクションについてコメントします。

個別企業への格付け維持・変更

格付け機関はおおむね年に一回、格付け先の信用力を見直し(レビュー)、その結果を外部に公表します。信用力に大きな変更がないと判断すれば、格付けを動かさない(維持)として、改善していれば上方への格付け修正(格上げ)、逆に悪化していれば下方修正(格下げ)します。

その際のプレスリリースの構成はMoody’sのがわかりやすいのでそれをもとにしますと、 Moody’sのリリースは、「格付理由」と「将来の格上げあるいは格下げにつながる要因」、の二つに分けられています。

格付理由のパートでは、格付けの維持であればその発行体の重要なポイント(財務諸指標であったり、外部環境なり財務方針であったり)が大きく変わっていない、あるいは変動があったとしてもMoody’sの予測の範囲内である、との理由づけがされています。

仮に変更であれば、変更に至ったファクターについての評価があります。

将来の格上げあるいは格下げにつながる要因、というところは、Moody’sが当該発行体に対して何を評価し、何を懸念しているかが読み取れる部分です。同社の場合、重視する財務指標、たとえば有利子負債とEBITDAとの比率であるとか、がこの程度になったら格下げがありうる、と明記されることが多い点でしょう。

R&I、JCRのプレスリリースも書かれている内容は同様ですが、将来の格付け変更に至る要因について書かれているかどうかはまちまちでかつ定性的な評価が大きく、「財務指標がこうなったら」、という定量的な記述は少ない印象です。

個別企業のアウトルック維持、変更

アウトルックとは、中期的(おおむね1〜2年)に格付けが変わる可能性を示唆するもので、当面変わらない、というときは「安定的」、上がるとみる場合は「ポジティブ」、下がる場合は「ネガティブ」と書かれます。格付け機関が重視するファクター(定量的、定性的双方)がはっきりしたものになるかどうか、見定める必要がある時に用いられます。おおむねレビューの際に同時にアナウンスされます。

臨時検討

アウトルックと似ていますが、格付け機関が想定していたシナリオから大きく離れた事象(たとえば合併や買収、事業環境や業績の大幅な変化、戦争などの突発事象)の際、その内容を精査し新たな格付けを公表する前のウォーニングとして用いられます。例外もありますが、数ヶ月以内には結果が公表されます。

各機関によって呼び名が違い、S&Pはクレジットウォッチ、R&Iはレーティングモニターといいます

格付け機関のレポートをどう読むか

格付けアナリストは、「ポジティブな材料はよく見極めてから保守的に織り込む、ネガティブな材料はスピーディに」と教わります。少なくとも筆者が最初にこの業務に携わった数十年前はそうでした。

格付けは安定性を重視しますので、好材料があったとしてもそれが一過性で終わってしまうかもしれません。持続性を伴うかはある程度時間を経ないとわかりませんので、格上げはすぐには行われないことが多いです。社債保有者にとっても格付けのアップサイドのメリットはさほど大きくはないので、あとからでも間に合う、という発想が根底にあります。

一方悪材料、それが大きいものであればあるほど早めに織り込むようにします。最悪の状況では社債はデフォルトして無価値になるかもしれず、投資家への警鐘は早いほど良い、と考えるからです。

警鐘、という意味で上記のアウトルックも用いられます。機関投資家は格付け変更で社債ポートフォリオを組み替える必要が生じる可能性があるため、発行規模の大きい発行体の格付けが突然変更となっても対応に困らないよう、予告しておくものです。とはいっても、アウトルックがポジティブでも次回レビューで格上げされないこともあれば、安定的から格付けが急に変わることもありますが。

以上をもとに、みなさんに格付け機関のレポートの利用法として申し上げたいことをまとめます。

①その発行体のどういうところを重視しているかを把握しておく

各社書きぶりは違いますが事業上や財務上の強み、弱み、をどう認識しているかをつかんでおきましょう。

② ウォーニングに注意

強みが減じてしまう懸念、弱みを克服する可能性などから符号の変更を想定した場合、アウトルックの変更となって現れます。1,2年内に変更される確率が相応にあります。

③ 格付け変更後のアウトルックに警戒

たとえば格下げしたのにアウトルックをネガティブにする、ということは下げ足りていないかもしれない、という格付け機関の懸念表明です。

④ コメントにも着目しよう

上では説明を省きましたが、たとえば発行体が比較的規模の小さい買収を発表した場合、格付け機関から「この買収は格付けには影響しない」といったコメントが出ることもあります。アクションしない、との意思表明と受け止めましょう。

⑤ 株式市場からのメッセージも参考に

発行体が株式を上場していれば、さまざまな情報で日々値動きします。格付け機関のアナリストはその情報がどの程度の影響を発行体に与えるか、見極めようとしますので遅行的ですが、株式市場は先取り的に期待で、あるいは懸念で動きます。債券の投資家が株価に一喜一憂する必要はないと思いますが、先行指標としてみておく必要はあるでしょう。

過去のデフォルト事例と格付け機関からのシグナル

過去の国内の社債のデフォルト事例と、格付け機関のアクションを表にまとめてみました。なお、ここでは破綻時点に社債が現存し、償還されなかった事例に限定しました。たとえば98年に山一證券が破綻した際も社債はありましたが、現金で償還されていることから除いています。また格付け機関のアクションについては、可能な限り各社のHPで確認し、一部をニュースサイトで過去記事検索し補完したのですが、データに漏れがあることをあらかじめお断りしておきます。

日本ではかつては企業経営が悪化し、社債のデフォルトの可能性が高くなるとメインバンクが買取り、投資家に負担をかけない慣行があったと聞いています。デフォルトで投資家が損失を被った戦後初の事例は97年のヤオハンとされています。その後、2001年にはマイカルの破綻で機関投資家だけではなく、個人投資家も多額の損失を被りました。

格付け機関のアクション事例:マイカルの場合

マイカルを例にとって格付け機関の当時のアクションをみてみましょう。積極的な店舗展開に伴う資金負担で同社の経営は悪化していたのですが、国内二社のうち、R&Iは1999年2月まで、JCRは2000年9月までA格においていました。ただ、R&Iはその後、2000年8月にBBB+からBBB-に格下げ、2001年1月に格下げ方向でレーティングモニター指定、6月にBB-に再格下げして9月の民事再生法申請を受け、CCとしました。一方のJCRはBBBに下げた後は破綻直前の一ヶ月前にBBとしただけで、その間クレジットモニターに指定することもしなかったのは、投資家へのウォーニングとしては十分だったか、疑問の余地があるところです。

外資系のMoody’sは97年にBa3と新規格付けを付与しました。その後、2001年1月にBa3維持を公表したのですが、その半年後の7月、売上不振を要因として格下げ方向で見直すと発表、同月中にB2に格下げしました。デフォルトはその二ヶ月後です。異例なことですが、その年の11月に「マイカル破綻からの教訓」として、脆弱な企業への金融機関の支援姿勢が変化してきている、と「反省の弁(?)」とも取れるレポートを公表しています。

経営危機に瀕した企業からは情報開示は得られにくくなることが多いです。そして一方、資金繰りを外部に依存した企業の格付けを下げることは、資金調達をさらに困難にする(破綻を近づける)ことにもつながり金ないジレンマもあります。それでも格付け機関は適切なタイミングでの投資家への警告を発して欲しいものです。

なお、上で苦言を書いたJCRはその後、2008~09年に中堅不動産会社が相次いでデフォルトした際にも情報発信が後手に回った感がありましたが、近年の事例(タカタ、ユニゾHD)では遅滞なくアクションを起こしているようです。

まとめ

この記事は、大きく分けて以下の3点を述べてきました。

①格付けの役割と定義。 ②格付け機関のビジネスモデルと信頼性を担保する手段と、にもかかわらず犯した失敗とその後導入された公的規制。 ③個人投資家にとっての格付け利用法、についてです。

格付け機関は、長い歴史の中でいつも正しいわけではなく、サブプライム危機に代表されるような、大きな間違いも犯しています。ただ、特に社債投資を検討されている個人投資家が信用リスクを考える上で、格付けが安価に、かつ網羅的に利用できるツールであることは確かだろうと思います。

うまく活用いただくために、単に記号の高い、低いだけではなく格付け機関各社が公表文を通じて発信するメッセージについてもご留意いただき、投資判断の参考にしていただければ何よりです。

村田稔さん写真

村田稔

格付投資情報センター(R&I)の主任アナリストとして、主として国内外の金融機関や政府系機関など幅広い業種を担当。また調査部門も担当し、クライテリア(格付けの考え方)の整備にも尽力。

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