日本で登録された格付け機関の仕組みと特徴を徹底解説
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公開:
2023.11.21
更新:
2024.08.09
「格付け」という言葉を聞いたことはありますか?お正月のテレビ番組の「芸能人格付けチェック」が思い浮かぶかもしれませんね。この番組では、芸能人自身が本物を見極めることができるかどうかによって、一流、二流などの格付けが決まります。
本記事で取り扱うのは金融分野の「格付け」です。芸能人格付けチェックとは違い、第三者が国や企業を評価し「格付け」します。最近の経済系ニュースでも、米国の大手格付会社がアメリカ国債の最上級評価を見直すのではないか、と話題になりました。
金融分野以外でも「格付け」が行われている身近な例として、Amazonや食べログの星やスコアが挙げられます。これらも、第三者である利用者が、商品やサービスを評価した「格付け」です。
Amazonのレビューと違い、金融分野の格付けは企業分析の専門家、すなわち「アナリスト」によって行われます。このアナリストたちが所属する組織が「格付け機関」や「格付け会社」です。
本記事では、格付け機関が行う格付けの中でも、債券の格付けに焦点をあてて解説します。格付けが投資判断にどう役立つのかを理解いただくために、格付け機関とはどういうものか、どういう基準でどんな格付けをしているのかを説明します。これらを理解いただき、実際に資産運用に債券を組み込む際の判断基準にお役立てください。
格付けの重要性と役割
債券の格付けとは?第三者のアナリストによる返済能力の「信用度」評価
日本国内で発行される普通社債の額は、2022年度で13兆円弱です。多くの企業、法人が社債を発行しています。実際に社債を購入する場合、何を基準に選ぶと良いでしょうか?その選択の手助けとして活用されるのが「格付け」です。
社債を購入する際、投資家にとって最も重要なのは、その債券が当初の約束通り返済されるかどうかです。社債を発行する法人は「発行体」と称されます。格付けは発行体の信用力をわかりやすく、比較しやすい形で記号化したものです。
金融分野には債券の他に株価に関する「格付け」も存在します。これは、特定の銘柄が今後、市場平均を上回る、または下回る可能性に関するアナリストの見解を示すものです。
株価に関する「格付け」では、その企業の成長性が評価のキーとなります。市場平均を上回る成長が期待される企業は高評価を受け、そうでない場合は低評価となります。
一方、債券の格付けでは、貸したお金が当初の約束通り返済されるかが焦点となります。返済能力の信用度を測ることから、「信用格付け」とも呼ばれます。
分析の中心はその会社の成長性よりも、どれだけ安定して返済のためのキャッシュフローを生み出せるか、生み出し続けられるか、という点に焦点を置いています。格付けを債券投資の参考にされる方は、この点をしっかりと理解しておくことが重要です。
格付けは投資判断にも利回り設定にも活用
格付けの意義を考えるために、格付けが存在しない社債市場を想像してみましょう。
債券を発行したい企業は、投資家たちに自らの事業の魅力を説明し、信頼を勝ち取る必要が生じます。
その反対に投資家は、投資の判断を下す前に、事業内容や財務健全性を詳しく調査・分析する必要に迫られるでしょう。このような過程には大きなコストがかかります。さらに、どの程度の利回りならば適切か、同時期に発行される別の会社の債券との比較から最も望ましい選択を判断する必要があります。
格付け機関による格付けは、これらの課題に対応しています。統一された評価基準を提供し、判断をしやすくする役割を持っています。
よりフォーマルな表現で説明すると、格付けには以下の3つの大きな役割があります。
①「投資家と発行体の間の情報のギャップ(情報の非対称性)」を解消
②投資家は、格付けを活用することで「情報の収集や分析にかかるコスト」を削減(参考: R&Iのホームページ)
③複数の債券を一元的に比較することで、利回りの妥当性を判断する「価格発見」機能
特に③の役割によって、格付けの高い債券ほど、返済される確率が高いことから利回りが低く、格付けが低い債券ほど返済されなくなる危険性が高いことから利回りが高くなります。
主要な格付け機関の役割と特徴
ここからは実際に格付けを付与している主要な格付け機関についてみていきましょう。ある程度社債市場が整備された国には格付け機関が存在します。またこれから市場を整備しようとする国の金融当局は、格付け機関の育成、強化を政策課題の一つとしています。先に書いたような格付けの果たす役割の重要性が認識されているからです。
世界各国に格付け機関が存在する、と書きましたがここでは日本の金融当局に登録された5つの格付け機関を中心に見ていきたいと思います。
日本で活動する格付け会社
社名 | 事業開始 時期 | 本社 | 主要株主 | 日本法人の 格付け社数 (概数) | 特色 |
---|---|---|---|---|---|
R&I (格付投資情報センター) | 1979 | 東京 | 日経グループ (70%弱) | 700 | 1998年、二つの格付け会社が合併して現在に至る。大企業、公的セクターのカバー率が高い。 |
JCR (日本格付研究所) | 1985 | 東京 | 時事通信社 (30%弱) | 700 | 日本の格付け会社として唯一米国の認定格付け機関として登録。 |
Moody's | 1902 | ニューヨーク | NY上場 | 170 | 2000年、D&Pからスピンオフし、上場。格付け先等の総数は全世界で35000先以上。 |
S&P Global Rating | 1860 | ニューヨーク | S&P Global | 150 | 旧称Standard &Poor's。全世界9500社以上を格付け。 |
Fitch Rating | 1914 | ニューヨーク、ロンドン | Hearst | 40 | 1997年、Fitchと欧州に本拠を置くIBCAが合併し現在の姿に。金融機関の利用率は高い。 |
*各社HPを参考に筆者作成
信用格付け業者の登録制度
2010年、日本の金融庁は信用格付け業者(格付け機関)の登録制度を導入しました。この背景には、2000年代後半に米国でおきたサブプライムローン問題です。この問題は国際的な金融危機に発展しました。
何が起きたかというと、高い格付け(多くは最上級のAAA)が付与された債券が短期間に大幅に格下げされるか、デフォルトしました。それら債券を大量に保有していた有力金融機関が相次ぎ破綻、あるいは破綻の瀬戸際まで追い込まれたのです。
この時、格付け機関が十分な精査を怠って高評価を不適切に付与したことが一因と指摘され、その役割が世界的に議論されました。
その結果、2008年には証券市場の監督に関与する国際的な機関であるIOSCO(証券監督者国際機構)が「信用格付け機関の基本行動規範」を取りまとめました。これをもとに、2009年に日本では金融商品取引法が改正され、2010年には格付け機関の登録制度が導入されることになりました。
登録制度が始まった2010年には、国内系の格付け機関2社と外資系の3社(より正確には、これらの企業の日本法人)が登録を行いました。
この新しい法制度の主な目的は、格付け機関に以下のような義務を課すことで、その遵守を通じて格付けの品質と信頼性を維持、向上させることです。
- 誠実義務:格付け機関は公平かつ誠実に行動すること。
- 体制整備の義務:適切な体制や制度を持って、その運用を確実に行うこと。
- 禁止行為:特定の不正な行為や利益相反の可能性がある行為を禁止。
- 情報開示義務:格付けの基準や方法、その他の関連情報を公開し、透明性を確保すること。
これらの義務を通じて、格付け機関の信頼性や品質の向上が期待されています。
国際的な格付け機関
Moody’s Investor’s service(以下ムーディーズ)、S&P Global Ratings(以下S&P)、Fitch Ratings(以下フィッチ)は、それぞれ100年以上の歴史を有する格付け会社で、総称してBig3とも呼ばれます。これらは発祥の米国のみならず、直接出資、地元資本との合弁、あるいは買収により設立した子会社を通して世界各地で格付け業務を行なっています。
S&P Global Ratingsの沿革と特徴
S&Pは、1860年にHenry Poor氏が始めた鉄道債券の分析事業(1868年法人化)と、1906年にLuther Blake氏が創業したStandard Statistic社(鉄道以外の信用分析)が1941年合併、Standard & Poor’s Corp.となりました。1966年には大手出版社のMac-Grow Hill(のち、持株会社化しS&P Globalに改称)に買収されています。
現在では、世界128カ国に展開、アナリスト数1500名を擁し、格付けした対象債券の総額は46兆ドル、とHPには記されています。
S&Pの評価手法
S&Pは以下のようなプロセスで企業評価を行っています。
- 事業プロフィールの評価: まず、カントリーリスク(企業が事業を行う国のリスク)、産業固有のリスク、そして企業の市場での競争状況を分析します。これらは総称して事業プロフィールと呼ばれます。
- 財務プロフィールの評価: 次に企業の財務状態を詳しく見ていき、借入金とキャッシュフロー(CF)のバランスを含む財務プロフィールを分析します。
- アンカー値の設定:事業プロフィールと財務プロフィールの評価に基づき、一次評価値であるアンカー値を設定します。
- 個別要因の調整: アンカー値に対して、多角化経営の度合いや資本構成などの企業固有の要因を調整し、スタンドアローン評価(企業自身の信用力評価)を導き出します。最近では、ESG(環境、社会、ガバナンス)要因も評価に含まれる傾向にあります。
- 追加要因の考慮: 最終的に、企業が属するグループ全体の力や政府支援の可能性などの外部要因を考慮し、発行体格付けが決定されます。
Moody’s Investor’s serviceの沿革・特徴
ムーディーズは、1900年代初めにJohn Moody氏が開始した鉄道会社の債券の信用分析(と英字による記号化)を出発点とし、1914年に法人化しました。その後分析対象を次第に拡大していきます。
1958年にMoody氏は亡くりましたが、1962年には情報サービス大手のDun & Bradstreet (D&B) の傘下に入り、1970年代には発行体からの手数料を得る現在のビジネスモデルを確立。
2000年にはD&Bからスピンオフしてニューヨーク証券取引所への上場を果たしています。。
現在、全世界で40カ国以上に展開し、従業員数14000以上(アナリスト数ではない)、格付けした対象債券の総額は72兆ドル以上になる、と同社のHPには記されています。
ムーディーズの評価手法
ムーディーズは業種ごとに設定されたスコアカードを予備的評価に用いています。
スコアカードでは以下5項目が評価対象です。
①規模指標
②ビジネスモデルや競合状況、規制などといった要素で構成された事業プロファイル
③収益性
④レバレッジ(有利子負債EBITDA倍率など)
⑤財務方針
スコアカードをもとにそれ以外の評価要素、たとえば経営戦略、流動性、親会社、政府サポート、を加味して最終的な符号を決定する、としています。ESG要素もこの段階で考慮されます。
S&Pとムーディーズの機関投資家や社会からの評価
S&Pとムーディーズは、国際的なカバレッジを誇り、機関投資家にとって非常に重要な情報源です。投資家はポートフォリオ管理においてS&Pとムーディーズの格付けを大きく頼りにしており、その格付けは資本市場の基準の一つとなっています。特に、米国内で債券を発行する際には、S&Pまたはムーディーズからの格付けを取得することが、事実上の起債要件と見なされています。できれば、これら両社からの格付けを取得することが好まれます。
Fitch Ratings(フィッチ)の沿革と特徴
フィッチは、1914年にJohn Fitch氏らが創業したFitch Publishing Companyが母体となり発展しました。1997年にはロンドンを基盤に主として金融機関を対象に格付けしていたIBCAと合併、IBCA-Fitchとなりました(その後現社名に改称)。
金融機関を中心におよそ8000先の発行体をカバーしています(フィッチ社HPより)。
フィッチの機関投資家や社会からの評価
カバレッジがS&Pやムーディーズと比べると、やや見劣りすることから率直に表現すると米国では、「あればなおよい」といった位置づけのようです。
ただし、金融機関のカバレッジが高いことから金融機関には広く利用されています。
日本国内の格付け機関:
日本における格付け制度は1980年代に始まります。83年に日本の金融市場自由化に向けた日米円ドル委員会が設置、この中で米国側から格付け制度導入が強く要請されました。翌年末には格付け機関設置に向けた報告書が大蔵省中心にまとめられ、85年、国内格付け会社が3社、立ち上げられるに至ります。
格付投資情報センター(R&I)の沿革と特徴
格付投資情報センター(R&I)は、1985年に日本興業銀行(現みずほ銀行)など邦銀、証券会社を中心に立ち上げた日本インベスターズサービスと、日本経済新聞が79年に立ち上げていた日本公社債研究所が98年に合併して誕生した会社です。現在は日経グループが過半出資し、残りは金融機関が広く保有しています。
国内法人を中心に約800社を格付け。大企業、政府系機関など大規模発行体のカバー率が高いことから起債にあたっての利用率が高いことが特徴です。
R&Iの評価手法
R&Iでは格付け対象企業のリスクを事業リスク、と財務リスクの双方を分析対象とします。前者は将来CFがどの程度安定的なのか、それとも変動しやすい性格なのか、を主力事業の業界リスクと個別企業の訂正要因が評価対象です。財務リスクは借入とCFのバランスや、自己資本の充実度といった定量的な要因を主に確認します。
事業リスクが大きくなればなるほど、財務リスクはより高い水準が求められ、逆に事業リスクがあまり高くない、となれば財務上の安定性はそこまでは必要ない、といった関係にあります。
二社が合併して誕生したことで、日本企業のカバレッジはR&Iが最も高い、という時期が長く続きました。近年はJCRの頑張りもあって格付け先数は拮抗していますが、海外案件は外資格付け会社を参照しても国内企業はR&Iをまず参照する、という機関投資家が多いようです。
日本格付研究所(JCR)沿革と特徴
日本格付研究所(JCR)は、85年に長期信用銀行(現SBI新生銀行)や生損保が中心となって設立されましたが、現在は時事通信社が筆頭株主です。国内系では唯一、米国の認定格付機関(NRSRO)となっています。JCRも国内法人を中心に、約800社を格付けしています。
格付けに使われる記号の意味と見通し評価を比較する方法
格付けの比較方法:
ムーディーズを除く4社の格付け符号は、最上級のAAAから始まり、以下AA、 A、BBB(AA格以下にはプラス、マイナスの記号が添えられます)と続きます。
ムーディーズはAaa、Aa、A、Baaとつづき、プラスマイナスではなく、1〜3の数字を用いているところが異なります。
なお格付けの刻み、たとえばAAA、AA+、AA、AA-…と続きますが、この一段階ごとを1ノッチと表現します。
(長期)発行体格付けの定義
格付 | R&I | S&P(抜粋) | ムーディーズ |
---|---|---|---|
AAA/Aaa | 信用力は最も高く、多くの優れた要素がある。 | 債務者がその金融債務を履行する能力は極めて高い。S&Pの最上位の発行体格付け。 | 信用力が最も高いと判断され、信用リスクが最低水準にある債務に対する格付。 |
AA/Aa | 信用力は極めて高く、優れた要素がある。 | 債務者がその金融債務を履行する能力は非常に高く、最上位の格付け(「AAA」)との差は小さい。 | 信用力が高いと判断され、信用リスクが極めて低い債務に対する格付。 |
A | 信用力は高く、部分的に優れた要素がある。 | 債務者がその金融債務を履行する能力は高いが、上位2つの格付けに比べ、事業環境や経済状況の悪化の影響をやや受けやすい。 | 中級の上位と判断され、信用リスクが低い債務に対する格付。 |
BBB/Baa | 信用力は十分であるが、将来環境が大きく変化する場合、注意すべき要素がある。 | 債務者がその金融債務を履行する能力は適切であるが、事業環境や経済状況の悪化によって債務履行能力が低下する可能性がより高い。 | 中級と判断され、信用リスクが中程度であるがゆえ、一定の投機的な要素を含みうる債務に対する格付。 |
BB/Ba | 信用力は当面問題ないが、将来環境が変化する場合、十分注意すべき要素がある。 | 債務者は短期的にはより低い格付けの債務者ほど脆弱ではないが、高い不確実性や、事業環境、金融情勢、または経済状況の悪化に対する脆弱性を有しており、状況によってはその金融債務を期日通りに履行する能力が不十分となる可能性がある。 | 投機的と判断され、相当の信用リスクがある債務に対する格付。 |
B | 信用力に問題があり、絶えず注意すべき要素がある。 | 債務者は現時点ではその金融債務を履行する能力を有しているが、「BB」に格付けされた債務者よりも脆弱である。事業環境、金融情勢、または経済状況が悪化した場合には、債務を履行する能力や意思が損なわれやすい。 | 投機的とみなされ、信用リスクが高いと判断される債務に対する格付。 |
CCC/Caa | 信用力に重大な問題があり、金融債務が不履行に陥る懸念が強い。 | 債務者は現時点で脆弱であり、その金融債務の履行は、良好な事業環境、金融情勢、および経済状況に依存している。 | 投機的で安全性が低いとみなされ、信用リスクが極めて高い債務に対する格付。 |
CC/Ca | 発行体のすべての金融債務が不履行に陥る懸念が強い。 | 債務者は現時点で非常に脆弱である。不履行はまだ発生していないものの、不履行となるまでの期間にかかわりなく、S&Pが不履行は事実上確実と予想する場合に「CC」の格付けが用いられる。 | 非常に投機的であり、デフォルトに陥っているか、あるいはそれに近い状態にあるが、一定の元利の回収が見込める債務に対する格付。 |
D/C | 発行体のすべての金融債務が不履行に陥っているとR&Iが判断する格付。 | 債務者が全面的に債務不履行に陥り、すべて、または実質的にすべての債務の支払いを期日通り行わないとS&Pが判断する場合に付与される。 | 最も格付が低く、通常、デフォルトに陥っており、元利の回収の見込みも極めて薄い債務に対する格付。 |
SD | なし | 債務者がある特定の債務または特定の種類の債務を選択して不履行としたものの、その他の債務については期日通りに支払いを継続するとS&Pが判断する場合に付与される。 | なし |
格付け様式 | AAからCCCまでには上位に近いものにプラス、下位に近いものにマイナスの記号が付加。 | AAからCCCまでにはプラス、マイナスの記号が付加。 | AaからCaaまでの格付けには1から3の数字が付加 |
*各社HPを参考に筆者作成
外資系と国内格付け会社の格付け格差
米国では従来、BBB格以上の企業が起債できるのが慣行として存在しました。(格付けの定義でBB格以下は投機的、とされたことでジャンク(くず)債との表現が用いられました。)
一方、日本では1985年の格付け制度導入時に当時の大蔵省が公募債は当面A格以上の企業が発行可能(適債基準)、としたことで、米系のBBB格が日本ではA格、とみなされ、実際の符号運営でも米系と国内系とでは平均で3ノッチ以上の開きが認められました。適債基準撤廃後、その格差は縮小傾向が認められますが、「代表的な企業の格付け」に示したようにやはり格差は認められます。
代表的な企業の格付け
社名 | R&I | JCR | S&P | Moody’s | Fitch |
---|---|---|---|---|---|
武田薬品 | A | A+ | BBB+ | Baa2 | |
ENEOS | A+ | AA- | Baa2 | ||
日本製鉄 | A+ | AA- | BBB+ | Baa2 | |
三菱重工 | A+ | AA- | BBB+ | ||
小松製作所 | AA- | A | A2 | ||
日立製作所 | AA | A | A3 | ||
パナソニック | A | A- | Baa1 | BBB- | |
トヨタ自動車 | AAA | AAA | A+ | A1 | A+ |
東京電力HD | A- | A | BB+ | Baaa3 | |
JR東海 | AA | AAA | A+ | A2 | |
三菱商事 | AA | A | A2 | ||
MUFG | A+ | AA- | A- | A1 | A- |
野村HD | A | AA- | BBB+ | Baa1 | A- |
日本生命 | AA | AA+ | A+ | A1 | A+ |
SBG | A | BB | |||
楽天G | BBB+ | A- | BB | ||
米国債 | AAA | AAA | AA+ | Aaa | AA+ |
日本国債 | AA+ | AAA | A+ | A1 | A1 |
(2023/8/31時点:空欄は格付け実施なし)
外資系間、国内系間の格付け格差
S&Pとムーディーズの間で格付け格差は小さく、日本企業を対象にした格付けについては平均で1ノッチ程度ですが、(フィッチについてはサンプル数が少ないので、比較が難しいです。)どちらかが一律に高い、ということはないようです。
一方、国内系のR&IとJCRについても1ノッチ程度の差がありますが、JCRがR&Iよりも1ノッチ上回る符号をつけているケースが多く認められます。
格付け格差の見方
格付けとはあくまで格付け機関の意見であり、各社の格付け基準などによって差異が生じるのはある程度当然です。
ただ、特に個人向けに発行された社債では発行体の側が「見栄え」も考慮して高い格付けのみを利用することも多いですので、投資家は上に書いたような違いがあることを認識しながら、複数の意見を吟味することが必要です。
アウトルックと臨時検討について
格付け各社は、符号と合わせてアウトルック(格付けの見通し)も公表しています。ほとんどの銘柄は安定的、ですが近い将来(おおむね1、2年)上がると想定している先についてはポジティブ、逆に下がると見込まれる場合にはネガティブ、としています。
格付けの変更を検討する材料が提示されているが、それが実際の数字を伴って現れるか、を見定め、投資家に対してのウォーニングとして用いています。
似たものに、臨時検討があります。各社呼び方は違います(注)が、たとえば合併等でそれまでの格付けの前提が大きく変わる時、その影響を見定めるために用いられます。
通常、格付けの見直しサイクルは一年程度ですが、臨時検討の結果はおおむね半年内に公表されます。(注、たとえばR&Iではレーティングモニター、S&Pではクレジットウォッチ、といいます)
格付けの事例研究
ここでは、格付けの具体的な事例を取り上げます。ソフトバンクグループと楽天グループ、米国債、日本国債の4つを順に紹介します。
ソフトバンクグループ(SBG)の格付け
SBGに対しては、S&PがBB、JCRがAとの評価を行なっています(2023/8/31時点)。なお、ムーディーズの格付けは2020年の格下げ時の対応が不満として取り下げられており、またR&Iは通信業のソフトバンク(SB)に対してのみ格付けしています。S&Pの格付けとJCRとの間の6ノッチはあまりみない乖離幅です。
SBGは近年大きく業態を変えている会社で、特にSBをスピンオフ上場させてからは純粋な投資会社となりましたが、こうした業態への格付けはあまり事例が多くはなく、両社共に評価には苦労している印象です。ちなみにS&Pは借入と資産価値のバランス(LTV)と、投資資産のうち、上場している資産の割合を重視しているようです。
JCRは、2023年1月にポジティブとしていたアウトルックを安定的に下げましたが、株安に伴う運用損益の悪化を理由にしています。
S&Pは、2023年5月、BBに格下げしSBGの再検討要請に対しても9月にアウトルックこそポジティブに修正しましたが、格付けは据え置きました。SBGはこの決定に対し、重視している指標の改善を理由に再度反発しています。
S&Pの、数値改善が持続的なものか見定める時間が必要、とのスタンスはやや慎重な印象もありますが、SBGが何度も大型投資で財務数値を悪化させてきた歴史を考えると理解できるところでもあります。
楽天グループの格付け
S&PがBB、これに対してR&IはBBB+、JCRはA-と評価しています。ただ、いずれもモバイル事業の赤字が大きいことからこの1、2年で1ノッチ格下げされており、アウトルックもいずれもネガティブです。この中ではR&IがA格からBBB格へ変更したことでの影響が大きかったようです。機関投資家の中には社債の保有基準をA格以上、と定めているところがある(昨今の運用難で見直した投資家も多いとは聞いてますが)ためで、そうした先は保有債を売却するなどポートフォリオの見直しの必要に迫られます。
個人投資家も機関投資家がそうした動きをする可能性があることは認識されておいた方が良いかもしれません。
米国債の格付け
米国内の投資家にとって米国債とはリスクフリー資産であり、すべての社債はリスクに応じて、米国債の利回りにどれくらいのスプレッド(上乗せ金利)を乗せるかが決まります。社債投資の基軸であり、従って最上級の格付けが付与されて違和感はないのですが、2011年のS&Pに続いて、2023年Fitchが格下げ、唯一Aaaを維持しているMoody’sも連邦政府の閉鎖が懸念された9月には格下げを警告しました。
3社の論点は共通していて、政争で機能不全を起こしかねない政府のガバナンスは高く評価できない、というところかと思います。仮に政府機関が閉鎖されたとしても、国債の元利払いのような義務的経費までとまることはないのですが。
かつて筆者が某社のアナリストと議論した際、「AAAとAA+の会社に財務上で大きな差異はない。ただ、AAAの会社にはSomething specialがあるんだ」と言われたことがありますが、今の米国もspecialな要素を欠きつつあるのかもしれません。
日本国債の格付け
外資系各社は日本国債の格付けを財政悪化を理由に2010年代初めに相次いで格下げしました。現在ではすべてA格(A+/A1/A)にとどまっています。R&Iも2011年にAA+に下げましたが一方、JCRはAAAを維持、現在に至っています。
もっとも最後の格下げから約8年、格付け変更は起きてません。財政悪化が止まったわけではなくむしろコロナショックでさらに悪化したにもかかわらず、追加的なアクションもありません。日銀による超低金利政策が利払費の増加を抑制している、という点は格付けを維持している理由の一つかもしれませんが。
ここからは筆者の憶測に過ぎませんが、3社が争って格下げした結果(時に他社との競合でそうしたアクションに走ることはあります)、他の国とのバランスを損ないかねないところまで下げてしまったので、現在はむしろ修正できるタイミングを測っているが、そうした時がなかなかこない、というところではないか、と。
まとめ
本稿では、格付けとは何か、そしてその意義はなにか、から始め、日本で活動する5つの格付け機関を紹介しました。格付け符号は類似するものの、アウトプットについては外資と日系とでは格付け格差が存在することを実例とともにみてきました。投資家の方々は単に一社の格付けだけを見るのではなく、格差の存在も念頭に複数を見比べることが重要と思います。
村田稔
格付投資情報センター(R&I)の主任アナリストとして、主として国内外の金融機関や政府系機関など幅広い業種を担当。また調査部門も担当し、クライテリア(格付けの考え方)の整備にも尽力。
格付投資情報センター(R&I)の主任アナリストとして、主として国内外の金融機関や政府系機関など幅広い業種を担当。また調査部門も担当し、クライテリア(格付けの考え方)の整備にも尽力。
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関連する専門用語
格付け(信用格付け)
格付け(信用格付け)とは、取引をする際に参考にされる基準の一つで、取引の相手側の信用度を確認するために支払い能力や財務状況、安全性などを総合的にランク付けしたものである。アルファベットや数字で表されるのが一般的である。 (例)格付投資情報センター(https://www.r-i.co.jp/index.html) による発行体格付の定義 AAA:信用力は最も高く、多くの優れた要素がある。 AA:信用力は極めて高く、優れた要素がある。 A:信用力は高く、部分的に優れた要素がある。 BBB:信用力は十分であるが、将来環境が大きく変化する場合、注意すべき要素がある。 BB:信用力は当面問題ないが、将来環境が変化する場合、十分注意すべき要素がある。 B:信用力に問題があり、絶えず注意すべき要素がある。 CCC:発行体の金融債務が不履行に陥る懸念が強い。 CC:発行体の金融債務が不履行に陥っているか、その懸念が極めて強い。 C:発行体のすべての金融債務が不履行に陥っているとR&Iが判断する格付。
劣後債
発行企業の倒産時には、一般の債権と比較して弁済順位が劣る債券。 普通社債の元利金などが全額支払われた後でなければ元利金が支払われず、社債でありながら相対的にリスクは高い。 その分、利回りは相対的に高めに設定されており、また、金融機関が発行する劣後債については、制限付きで自己資本への算入が認められているため、金融機関が自己資本比率を高める手段として発行するケースが目立つ。
信用リスク
有価証券の発行体(国や企業など)が財政難、経営不振などの理由により、債務不履行(利息や元本などをあらかじめ決められた条件で支払うことができなくなること)が起こる可能性。 そういう事態が起こった場合やそれが予想される場合には、発行体の有価証券の価格は下落する。
ハイブリッド証券
株式と債券の特徴を合わせ持つ証券のこと。劣後債、優先出資証券、優先株などで、自己資本の維持・増強を求められている金融機関や企業が発行。発行体にとって、株式の希薄化を回避できるほか、信用格付けに影響を与えないなどのメリットがある。
社債
一般の事業会社が発行する債券を指す。債券とは、発行体が投資家から資金提供を受ける代わりに満期までに利子を支払い、満期には元本を返済する有価証券のこと。
証券化
証券化とはキャッシュフローを産む資産を証券化し、投資家に売却することである。裏付けされたキャッシュフローを発行される債券の利払いと元本の償還に充てる。証券化される資産の種類は多様であり、不動産債権、クレジットカード債権、住宅ローン債券などがある。