ハイイールド債とは?危険な債券にあえて投資する理由を解説
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公開:
2025.01.10
更新:
2025.01.10
目次
ハイイールド債におけるライジングスターとフォーリンエンジェルズとは?
個人が日本でハイイールド債に投資するなら投資信託やETFを活用する方法も
信用格付けが低いものの、利回りが高い債券はハイイールド債やジャンク債と呼ばれています。ハイイールド債にはどのような特徴があるのでしょうか?こちらの記事ではハイイールド債について特徴などを解説するとともに、投資のメリット・デメリット、そして投資する具体的な方法などを解説します。
ハイイールド債(ジャンク債)とは?
ハイイールド債とは、利回りが高く信用格付が低い債券のことです。イールド(yield)は直訳すると「収益」「利回り」という意味となります。近年はハイイールド債と呼ばれることが多いものの、ジャンク債と呼ばれることもあります。
ハイイールド債は具体的には、格付会社等で信用格付が投資不適格の評価の債券であり、信用度が低いため格付の高い債券に比べると金利が高く設定されています。
格付けについては、格付け会社により表記が異なります。代表的格付け会社3社(スタンダード&プアーズ、ムーディーズ、R&I)の格付けの表記は以下となります。
投資不適格に分類される中でも更に下の格付けにあり、既に倒産している、もしくは実質的な倒産状態はディストレストと呼ばれています。
なお、ハイイールド債は、上記のように信用格付けが低いために利回りが高い債券のみではありません。経済状況の悪化や債務の増大から基準金利が高く設定されている開発途上国などでは、結果的に発行する国債の利回りが高くなりハイイールド債と呼ばれることもあります。
なお、ハイイールド債は多くの場合、企業が発行する債券(社債)です。しかし財政状態の悪い国が発行する国債は、国債であってもハイイールド債となります。
ハイイールド債(ジャンク債)の特徴
ハイイールド債は、投資適格債と比べると信用度が低く、デフォルトを起こす(約束通りの資金返済や利息の支払いがなされない)リスクが高い債券です。信用度が低い分、ハイイールド債は投資適格債に比べて高い利回りとなっています。
ハイイールド債は主に満期の短いものが発行されており、多くは10年未満の満期です。また発行後4~5年で、発行体による期限前償還がなされるものも少なくありません。
ハイイールド債(ジャンク債)投資のデメリット
ハイイールド債の投資に際しては、以下の3点のリスクを理解する必要があります。
①デフォルトリスク
②流動性リスク
③高い手数料
それぞれ解説します。
①デフォルトリスク
デフォルトリスクは、約束通りの期日に資金返済や利息の支払いがなされないリスクです。デフォルトリスクがほぼない投資適格債券とは異なり、ハイイールド債はデフォルトリスクのある投資不適格債券となる点は充分な理解が必要です。
デフォルトについては、企業が発行する社債と国が発行する国債に分けて考えるとよいでしょう。社債については、発行する企業の経営状態が悪くなると利払いの遅延や償還ができなくなります。最悪の場合、企業は倒産し社債保有者に対する支払いはゼロとならざるを得ません。どの程度返済されるかは、企業倒産時の企業の財務状態や企業再建を支援するスポンサーの有無やその支援スタンスに左右されます。一方、国債も発行する国の財政状態が悪化すれば、利払いの遅延や償還ができずにデフォルトが発生します。ただし、国はデフォルトが発生してその時の政権が倒れても、国家としては存続します。よって、債券の支払い金額のカットや支払い期間の延期などはあっても、投資資金がゼロになることは少ないと言えます。
②流動性リスク
流動性リスクは、売りたい時に売れないリスクです。日本国債や米国債は活発に取引され、高い流動性があるため、投資した後に投資家の自由なタイミングで売却が可能です。しかしハイイールド債は取引が限定的な状態のものが多いため、投資家が売却を希望しても、適切なタイミングで適切な価格で売却できない可能性があります。売却を優先すると、価格を相当下げなければ売れない場合もあります。本来の市場価格を大きく下回る価格でしか売れない状況が、流動性リスクの具体的リスクと言えるでしょう。
③高い手数料
手数料について、債券は原則的に投資家同士の相対取引です。その中でもハイイールド債は取引が限定されています。よって取引を仲介する証券会社も、投資家毎に個別の対応が迫られることもあります。このためハイイールド債の取引手数料は、投資適格債などに比べると高めに設定される傾向にあります。
ハイイールド債(ジャンク債)投資のメリット
ハイイールド債(ジャンク債)投資のメリットは、高い利回りが得られる、という点に他なりません。2024年9月中旬時点で日本の長期金利は0.25%です。10年の個人向け国債を購入しても、表面利率は1.1%に留まります。
一方で、ハイイールド債なら5%以上の利回りの債券があります。ハイイールド債は債券であるため、一定期間の到来後に資金が返済されます。よって、デフォルトさえ発生しなければ、ハイイールド債はまとまった資金を高い利回りで運用可能です。
米国と日本のハイイールド債市場
企業などが資金調達を行う際は、金融市場で株式や債券を発行して資金調達を行う直接金融と、銀行などから融資を受ける間接金融の2種類の方法があります。株式の発行による資金調達は、直接金融の代表的な資金調達方法です。株式の発行による資金調達は日米ともに活発に行われています。
債券の発行も直接金融による資金調達であり、日米両国で行われて資金調達がなされています。しかし日本は、メガバンクから信用組合まで銀行の数が非常に多く間接金融が発達しています。このため返済の必要がある資金は債券の発行よりも銀行融資により調達されるケースが非常に多いです。日本では債券の発行による資金調達は政府や自治体、信用力の高い上場企業に限られています。また国内の債券に投資する機関投資家は、投資の対象を投資適格債のみとしているケースがほとんどであり、仮に企業がハイイールド債を発行しても、投資家が集まらない=資金調達ができない、と言えるでしょう。このため、ハイイールド債は日本ではほとんど発行されておらず、投資家は国内ハイイールド債への投資は事実上不可能です。
一方、米国では信用力の低い企業も社債発行による資金調達を行っており、多くのハイイールド債が取引されています。以下が米国のハイイールド債の市場規模の推移です。2020年には市場規模1兆4000億ドル規模であり、莫大な資金がハイイールド債の発行で調達されていると分かります。
これらからハイイールド債に投資する際は、日本人投資家であっても投資対象は国内ではなく海外、特に米国とならざるを得ない点は事前の理解が必要です。そして海外債券への投資となるため、先に説明した3つのリスクに加えて為替リスクも生じる点は注意が必要です。
ハイイールド債におけるライジングスターとフォーリンエンジェルズとは?
ハイイールド債関連の用語の中で、ライジングスターとフォーリンエンジェルズという言葉があります。意味は以下となります。
・ライジングスター(Rising Stars):信用格付けが向上し、非投資適格から投資適格になりつつある債券を指します。投資適格になると債券の市場価格が上がります。
・フォーリンエンジェルズ(Fallen Angels):信用格付けが低下し、投資適格から非投資適格に転落した債券を指します。信用格付けが低下すると、市場で取引される債券価格は下落します
ライジングスターに投資できれば、ハイイールド債の投資で高い利息収入が得られるのみならず、格上げによる債券価格上昇効果で、途中売却により値上がり益の獲得も可能となります。
債券に投資する国内機関投資家は、内規などで投資できる債券を投資適格債に限定している場合がほとんどです。よって、フォーリンエンジェルズは(投資適格債が投資不適格債に格下げされると)、ルールに基づき一律で売却が行われます。
ハイイールド債はどこで買える?
前述のように国内企業のハイイールド債の発行はなされておらず、ハイイールド債の発行は米国企業の社債が中心となります。
過去、国内から海外の有価証券に投資を行う際は、現地の証券会社などに口座開設を行う必要があり非常に手間がかかりました。しかし、近年は米国株式を代表に、海外の金融商品を扱う国内証券会社も増えています。
現在は多くの国内証券会社で米国株式を取り扱っていますが、米国債券を始めとする外国債券も複数の国内証券会社で取り扱いがあります。ネット証券では楽天証券とSBI証券が多数の米国債を取り扱っています。
このため現在は、現地の証券会社などに口座を開設せずとも、外国債券を取り扱う国内証券会社の口座さえあれば、国内証券会社からハイイールド債の購入が可能です。ただし、債券は投資家間の相対取引を証券会社が仲介する形となるため、証券会社により取引できる債券の種類に大きな違いがある点は注意しましょう。
個人が日本でハイイールド債に投資するなら投資信託やETFを活用する方法も
ハイイールド債を発行するのは主に米国を中心とする海外企業です。よって投資家は、実質的に米国企業などに融資する形となります。国内大手企業なら事業内容や財務状況は簡単に調べられます。しかし米国のハイイールド債を発行する企業の事業内容や財務状況の把握には、相当の知識が求められます。プロでもない個人投資家が、ハイイールド債の発行企業の信用力を調査するのは難しいと言わざるを得ません。
ハイイールド債はデフォルトを起こすリスクもあります。よって、様々な種類のハイイールド債に投資することで投資リスクの分散が可能です。しかし個人で複数のハイイールド債への投資は手間がかかりますし、大きな資金も必要となります。
個別のハイイールド債への投資によるデフォルトリスク回避のため、ハイイールド債への投資は個別の債券に投資するのみではなく、ハイイールド債を組み入れるETFや投資信託に投資する方法もあります。またETFや投資信託なら、海外債券の取り扱いのない証券会社でも取引可能です。
ハイイールド債への投資を目的に組成された投資信託やETFは、複数のハイイールド債に投資するためリターンのバランスが取れています。また小口での投資もできるため、ハイイールド債への投資の第一歩はハイイールド債型の投資信託やETFから始めることがおすすめです。
参考:債券投資・ETF記事
ハイイールド債に投資する投資信託やETFとしては、具体的に以下があります。
投資信託:フィデリティ・USハイ・イールド・ファンド
米ドル建てのハイイールド債を中心に分散投資を行ない、高水準の利息等の収入を確保するとともに、値上り益の追求を目指す投資信託です。格付けに関しては、主に、Ba格(ムーディーズ社)以下またはBB格(S&P社)以下の格付けの社債に投資を行ない、一部は格付けを持たない債券や、米国以外の国の発行体の高利回り事業債の組入れも行っています。
銘柄選択に関しては、個別企業分析により判断しており、個別企業分析にあたっては、アナリストによる独自の企業調査情報を活用し、個別の企業の信用分析と現地のポートフォリオ・マネージャーによる「ボトム・アップ・アプローチ」を重視した運用を行なっています。なお、高利回り事業債の組入率は原則として高位を維持しています。
2024年7月末時点の最終利回り7.0%、修正ディレーション3.3年です。
なお、ハイイールド債に投資する投資信託の代表例として「フィデリティ・USハイ・イールド・ファンド」を取り上げましたが、他にも複数のハイイールド債に投資する投資信託があります。
iシェアーズ 米ドル建てハイイールド社債 ETF(為替ヘッジあり)<1497>
東京証券取引所に上場するETFです。Markit iBoxx米ドル建てリキッド・ハイイールド指数(TTM円ヘッジ付き)への連動を目指すETF(上場投資信託)。Markit iBoxx米ドル建てリキッド・ハイイールド指数(TTM円ヘッジ付き)は先進国の企業が発行した米ドル建てのハイイールド債券の動向を示す債券指数です。なお、為替の変動リスクを低減するために、為替ヘッジが行われています。
2024年9月時点で過去12ヵ月分配利回り5.68%、加重平均残存期間3.99年となっています。
なお、ハイイールド債に投資する国内ETFは「iシェアーズ 米ドル建てハイイールド社債 ETF(為替ヘッジあり)」に限られますが、米国市場に上場するハイイールド型ETF(iShares iBoxx $ High Yield Corporate Bond ETF:HYG、SPDR Bloomberg High Yield Bond ETF :JNK)なども入れれば複数のETFが投資対象となります。
まとめ
デフォルトが発生しなければ、ハイイールド債は年間数%の利息が得られ、またまとまった資金の投資ができる魅力的な投資先です。ハイイールド債に投資しようとすると、以前は米国の証券会社などに口座を開設する必要がありました。しかし現在は、国内のネット証券からもハイイールド債への投資が可能であり、投資のハードルが下がっています。またハイイールド債は投資信託やETF経由での投資も可能です。ハイイールド債への投資に興味を抱いたなら、まずは少額資金で投資信託やETFでハイイールド債への投資から始めてはいかがでしょうか。
石井僚一
金融・投資ライター
大手証券グループ投資会社への勤務を経て、個人投資家・ライターに。株式関連、為替関連、資産運用関連を中心に執筆中。Yahoo!トップページに掲載実績あり。第一種証券外務員資格保有。
大手証券グループ投資会社への勤務を経て、個人投資家・ライターに。株式関連、為替関連、資産運用関連を中心に執筆中。Yahoo!トップページに掲載実績あり。第一種証券外務員資格保有。
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イールドカーブ(Yield curve)とは、利回り曲線という意味で、縦軸に利回り、横軸に既発債が償還されるまでの期間(残存期間)を示し、金利と期間の相関を示したグラフ。イールドカーブの形状変化で景気や先行きを予想できるので、債券投資の際に有用であるとされている。例えば、右肩上がりのイールドカーブは順イールドと呼ばれ、景気上昇の予兆として見られる。
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額面金額に対する毎年受取る利息の割合のこと。クーポンとも言う。 債券の利率は、発行するときの金利水準や発行体の信用力等に応じて決定。
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日本が発行している国債の一つ。償還期限まで半年に1度、年に2回のペースで利子を受け取ることの出来る国債。満期償還時に額面の全ての金額が戻る。利率は一定の利払いがある固定利付債と、金融情勢によって利率が変化し利払いがその都度に変わる変動利付債の2種類がある。
格付け(信用格付け)
格付け(信用格付け)とは、取引をする際に参考にされる基準の一つで、取引の相手側の信用度を確認するために支払い能力や財務状況、安全性などを総合的にランク付けしたものである。アルファベットや数字で表されるのが一般的である。 (例)格付投資情報センター(https://www.r-i.co.jp/index.html) による発行体格付の定義 AAA:信用力は最も高く、多くの優れた要素がある。 AA:信用力は極めて高く、優れた要素がある。 A:信用力は高く、部分的に優れた要素がある。 BBB:信用力は十分であるが、将来環境が大きく変化する場合、注意すべき要素がある。 BB:信用力は当面問題ないが、将来環境が変化する場合、十分注意すべき要素がある。 B:信用力に問題があり、絶えず注意すべき要素がある。 CCC:発行体の金融債務が不履行に陥る懸念が強い。 CC:発行体の金融債務が不履行に陥っているか、その懸念が極めて強い。 C:発行体のすべての金融債務が不履行に陥っているとR&Iが判断する格付。