日銀のイールドカーブコントロールが国債の利回りに与える影響は?
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公開:
2024.03.14
更新:
2024.07.22
日本銀行など、中央銀行の役割とは?なぜ政策金利が資産運用に影響するのか
各国にはそれぞれ中央銀行が存在します。日本の中央銀行である日本銀行を始め、中央銀行の役割を解説するとともに、中央銀行が経済に影響力を行使する際に使われる政策金利について解説します。
中央銀行の役割の基本
中央銀行には様々な役割があります。国により中央銀行の役割は一部異なりますが、日本の中央銀行である日本銀行の役割は主に以下の3点となります。
- 紙幣の発行
- 銀行の銀行
- 政府の銀行
個人に対しては紙幣の発行を通じて、銀行に対しては銀行の銀行(日本銀行は民間銀行に資金の貸し出しなどを行う)として、政府に対しては金融サービス提供者として、日本銀行はそれぞれ大きな役割を果たしています。
国の金融政策を担う重要な機関
日本銀行には、政府の銀行としての役割があります。民間の銀行が企業に対して行う、決済や融資などの金融サービスの提供と同様のサービスを、日本銀行は政府に対し行っているイメージです。
その中で、日本銀行は国債の発行、外国為替介入(指示を出すのは財務省で日銀は実務を担当)などの業務を手掛けており、国の政策を担う重要な機関です。
ただし、日本銀行は日本政府から一定の独立性を有しており、日本政府と日本銀行は協調して共通する目標の達成を目指します。
中央銀行が政策金利を設定・発表する理由
中央銀行は、政策金利を用いて国の経済に対し影響力を行使します。景気低迷時は金利を引き下げて経済活動の活発化を促す反面、景気が過熱し過ぎていると判断されれば、金利を引き上げて景気の沈静化を図ります。
中央銀行にとって政策金利は、金融政策実行のための重要な手段です。また、政策金利を実際に上下させるのみならず、今後の金利の見通しを金融市場に示して金融市場を動かすことで経済に影響を与えています。
投資家から見た中央銀行の動向の重要性
投資家は中央銀行の動向を無視することはできません。特に金融や経済の環境の変化時に、中央銀行の存在感が高まります。
金融市場は中央銀行の動向に大きな影響を受けます。例えば、利上げが期待されている中で中央銀行が利上げを見送れば、金融市場では失望感から通貨が売られるなどの影響が生じざるを得ません。
中央銀行の発表する政策は、様々な形で金融市場に大きな影響を与えます。よって中央銀行の動向を把握し、トップなどの発言に注目することは、金融市場に携わるなら必要不可欠といえるでしょう。
各国の中央銀行一覧
各国に中央銀行は存在します。世界を代表する中央銀行は下記です。
- FRB(FederalReserveBoard)→アメリカの中央銀行
- 日本銀行(BOJ:BankOfJapan)→日本の中央銀行
- ECB(EuropeanCentralBank)→ユーロ採用国の中央銀行(ユーロを採用する各国に中央銀行はあるものの、金融政策の決定権はECBが持つ)
この中で、日本人投資家が特に注目すべきは、FRBと日本銀行です。FRBはアメリカの金融政策の総元締めです。よって金融商品の取引を行う際は、FRBの動向把握が必要です。また同様に、日本人は日本銀行の行う金融政策の影響を直接受けるため、日本銀行も注目すべき存在です。
ただし、日米以外の株式や投資信託などを持つ場合は、それらの国の中央銀行の動向も最低限の把握をしましょう。景気悪化により利下げが続く国の株式に投資しても、報われる可能性は低いといわざるを得ません。
イールドカーブとは?債券利回りと満期の関係を示す指標
債券の分析や投資を行う際に、イールドカーブは欠かすことができない存在です。イールドカーブとは何か、またイールドカーブの種類やそれぞれのイールドカーブの状態における経済の見方を解説します。
イールドカーブの基本的な定義
債券から得られる利益は、償還までの残存期間に応じて異なります。債券の残存期間を横軸、利回りを縦軸に置き、異なる残存期間の債券をそれぞれグラフで結ぶとカーブが描かれます。これがイールドカーブ=利回り曲線と呼ばれるものです。
イールドカーブを見れば、現在の金利の状況が一目瞭然となり、また点と点を線で結ぶことで、残存期間に応じた利回りの推測も可能です。イールドカーブは債券の投資や分析の際に欠かすことができないグラフです。
期間が短い債券の金利は低く、期間が長い債券の金利は高くなるのが通常です。よって残存期間の長い債券の利回りは、残存期間の短い債券よりも高くなるため、イールドカーブは通常右肩上がりとなります。右肩上がりの通常のイールドカーブは「順イールド」と呼ばれます。
順イールドカーブ、逆イールド、フラット、スティープの違い
期間が短い債券の金利は低く、期間が長い債の金利は高くなるのが通常です。よって残存期間の長い債券の利回りは、残存期間の短い債券よりも高くなるため、イールドカーブは通常右肩上がりです。右肩上がりの通常のイールドカーブは「順イールド」と呼ばれます。
しかし、金融市場の混乱や中央銀行による債券市場への介入などがあると、イールドカーブは様々な形状に変化します。イールドカーブの形状には以下があります。
- 通常の右肩上がりの「順イールド」
- 平らな「フラット」
- 右肩下がりの「逆イールド」
- 「順イールド」状態でも、傾きが急になる「スティープ」
イールドカーブは変化します。その中で、通常の「順イールド」に対しイールドカーブがどのような状態となっているかを見ることで、イールドカーブの形状から、現在の金融市場や経済状況の把握ができます。
種類 | 概要 |
---|---|
順イールド | 長期金利が短期金利よりも高い通常の状態です。正常な経済活動が行われており、経済は成長過程にあるとされます。 |
フラット | 短期金利と長期金利が同水準となっている状態であり、景気拡大初期や景気後退初期に現れる傾向があります。 |
逆イールド | 短期金利が長期金利を上回っており、経済の不確実性が高まっている状態です。 |
スティープ | 短期金利と長期金利の差の拡大が進んでいる状態であり、将来の強い経済成長や景気回復が期待される際に現れます |
イールドカーブの状態により、足元の経済状態について大きな流れを把握できることが多くあります。しかし順イールドカーブの時の不景気など、例外のケースもあるため注意しましょう。
中央銀行の特別な政策:イールドカーブコントロール
中央銀行は金利のコントロールを行うことで、金融市場への影響力を行使します。中央銀行の政策変更が債券市場にどのような影響を与えるのか、また債券市場の変動に併せて投資家はどのような投資方針で臨む必要があるのかを解説します。
なぜイールドカーブコントロールが行われるのか
イールドカーブコントロール(Yield Curve Control, YCC)は、中央銀行が経済に影響を与えるために行う政策の一つです。イールドカーブをコントロールすることで下記の政策目標の達成を目指します。
- 金利の安定化
- 経済成長の促進
- インフレの調整
中央銀行によるイールドカーブコントロールは、具体的には長期金利のコントロールを行うことで実施され、主に長期金利を意図的に引き下げられることで行われます。
しかし短期金利は中央銀行がコントロールできる反面、長期金利は本来的には金融市場で決められるものです。よってイールドカーブコントロールの実施は、経済成長などの政策目標達成のために、無理な金融政策が行われている面が否定できません。
日本銀行の特色ある政策
日本銀行は日本経済のデフレからの脱却を目指し、年率2%の持続的な物価上昇を目標にイールドカーブコントロールを行っています。その特徴は主に3点あります。
- 短期金利のマイナス化
- 長期金利のコントロール
- 量的・質的金融緩和との組み合わせ
日本銀行は2016年1月に、短期の政策金利をマイナスに設定してマイナス金利を導入しました。これにより金融機関の積極的な貸し出しを促しています。また長期金利については、0%付近で推移するよう長期国債の買い入れを行っています。長期国債の買い入れについては、大規模な国債購入プログラム(量的・質的金融緩和)と組み合わせることで、金融市場に対し資金の供給を行っています。
日本銀行の掲げる2%の継続的な物価上昇に向けて、イールドカーブコントロールを始め日本銀行は政策を総動員している状態です。その結果、世界的なインフレもあり、物価面での目標は2022年半ば以降におおむね達成されました。しかし実質賃金の低下を理由に、2024年に入っても量的・質的金融緩和とイールドカーブコントロールは継続中です。
イールドカーブコントロールが市場や私たちの投資にどう影響するか
イールドカーブコントロールにより、金利は人工的ながらも安定します。よって、市場参加者が金利の将来の動向を予想しやすくなり、また過度なボラティリティも抑制されます。
この結果、投資家は債券市場において、過度な金利変動リスクを避ける形での取引が可能になります。また人工的に利回りが固定化されていることから、低い金利で資金を借りて、高い利回りの債券を購入刷るキャリー取引が有効に機能し、また異なる期間の債券間の利回りの差を利用したスプレッド取引も、安定的な取引ができます。
ただし、イールドカーブコントロールにより人工的に長期金利がコントロールされ、投資家が本来得られるはずの長期金利高の恩恵が享受できないなど、債券市場の健全性が損なわれている面は否定できません・
中央銀行の政策金利と国債投資
中央銀行により政策金利が変更された際は、どのように債券投資へ取り組めばよいのでしょうか。金利上昇時など、金利が変化する際の債券投資の考え方を解説します。
政策金利とは
政策金利とは、中央銀行が金融政策を通じて設定する金利であり、中央銀行が金融市場に供給する資金の貸し出し率を指します。日本銀行の政策金利は現在、無担保コール翌日物の金利となっています。なお、無担保コール翌日物の金利とは、銀行間を主体に貸し借りを行うコール取引の中でも、無担保で翌日決済される取引金利です。
金利の変動が債券市場に与える影響
政策金利の変動は、債券市場に大きな影響を与えます。具体的には、債券の価格と利回りに影響を与えます。
「政策金利の引き上げ」:債券価格の低下と利回りの上昇
政策金利が上がると、新たに発行される債券(新発債)は既存の債券よりも高い利率となります。よって、過去に低い利率で発行された債券(既発債)の魅力が低下し、既発債の価格は下がります。既存債の価格が下がると、その債券の利回りは上昇します。これは、利率が高い新発債との利率を均衡させるメカニズムが働くためです。
「政策金利の引き下げ」:債券価格の上昇と利回りの低下
政策金利が下がると、新たに発行される債券(新発債)は、既発債よりも低い利率となります。よって、既発債が人気化するため、その価格は上昇します。既発債の価格が上がると、その債券の利回りは下がります。これは、利率が低い新発債との利率を均衡させるメカニズムが働くためです。
イールドカーブを活用した債券の選び方
債券投資においては、イールドカーブの状態により投資戦略が異なります。それぞれのイールドカーブの状態による債券への投資戦略は下記となります。
順イールド
通常の状況であり、短期債の利回りが長期債の利回りよりも低い状態です。よって、利回りの高い長期債の購入で問題ありません。
フラット状態
経済の転換期を示唆しており、短期債と長期債の利回りがフラットな状態です。経済及び金融市場の行方が不透明であり、短期債と長期債を組み合わせたラダー戦略(様々な満期の債券に分散投資する戦略)が有効に機能します。
逆イールド
短期債の利回りが長期債の利回りよりも高い状態です。短期債への投資で高い利回りを享受できる、ローリスクの債券投資が可能です。ただし頻繁に発生する状態ではありません。
スティープ
短期金利及び長期金利ともに上昇が予想されるため、最初の段階では短期債に投資して金利の上昇を待ち、その後に長期債に投資する、短期債から長期債に乗り換えるといった投資戦略が有効です。
日本人もFRBの政策金利に注目するべき理由は?
日本の国債市場はメガバンクなど機関投資家中心の市場であり、個人投資家への解放がほとんど進んでいません。また社債も同様です。よって日本の個人投資家が債券投資を行う際は、米国債や米国の企業が発行する社債が主な投資対象とならざるを得ません。
米国の債券市場はFRBの金融政策に大きく左右されます。またFRBは金融市場との対話を重視しており、FRB関係者が積極的に発言することで、今後の金融政策の方向性を示唆しています。
債券投資を行うなら、政策金利などを通じてダイレクトに債券市場に影響を与える、FRBへの注目は必要不可欠といえるでしょう。
金利上昇時、どう債券投資を行う?
中央銀行により政策金利が引き上げられて金利が上昇した時、どのように債券投資を行えばよいのでしょうか。金利上昇時など、金利が変化する際の債券投資の考え方を解説します。
金利変動時の債券の売買タイミングの考え方
金利の変動は債券価格に大きな影響を与えます。金利が上昇すると債券の価格は下落し・金利が下落すると債券の価格は上昇する、という債券のメカニズムに対し充分な理解が必要です。以下では、金利の動きに合わせた債券の購入や売却のタイミングに関する一般的な考え方を解説します。
金利上昇時(債券価格下落時)
短期債に注目:短期債の価格は長期債に比べると、金利変動の影響を受けにくいといえます。よって金利が上昇傾向にある時は、短期債への投資が有効です。
売却も検討:既存の債券を保有し続けると、価格が下落するリスクがあります。特に長期債は金利上昇の影響を受けやすいため、売却の検討も選択肢です。
金利下落時(債券価格上昇時)
長期債に注目:金利が下降すると債券価格は上昇します。特に長期債は価格上昇の恩恵を受けやすいため、金利の下降時は長期債への投資が有効です。
売買差益獲得を狙う:金利下落時に債券価格は上昇します。よって、投資後に当初予想した金利収入を超える売買差益を得られる、または短期的にそれに近い状況となった場合は、売却により売買差益を狙うことも有効です。
金利上昇時の戦略的な債券運用
金利上昇時に債券に投資する際は、債券価格の下落リスクを認識する必要があります。金利が上昇すると債券価格は下落するものの、短期債は長期債に比べて金利変動の影響を受けにくいです。
よって金利上昇期は短期債に投資することで、価格下落リスクの一定の回避が可能です。また債券が満期を迎えた際に再投資することで、より高い金利で新しい債券の購入ができます。
債券の満期や再投資についての考え方
債券に投資するタイミングとしては、金利の高い時が有利といえます。これは高い利回りでの投資なら、満期までの保有で高い利息が得られ、また金利が低下すれば、債券価格の上昇により売買差益の獲得チャンスがあるためです。よって投資した債券が満期を迎え償還された際に、高金利の状態なら、償還資金を債券に再投資することが有効です。
一方、債券の償還時に金利が下落している際は、選択肢として、①当面現金として保有しておく、②株式など債券と逆相関の値動きを見せやすい商品に投資する、③期間の短い債券に投資して様子を見る、という3つがあります。
個人投資家は、状況が分からない時は投資を休むことができます。①は個人投資家の、“何もしない”という優位性を活用する選択です。また②について、債券は株式と逆相関の値動きを見せる傾向にあります。よって米国債の場合はS&P500などの株価指数連動型のETFなどに投資することで、低金利により債券投資が不利な際でも投資パフォーマンスを上げられる可能性があります。③については、低金利を甘受しながら期間の短い債券に投資を続けることで、金利が上昇した際に再度長期債への投資を開始する、①に比べ積極的な待ちの戦略といえるでしょう。
まとめ
中央銀行の金融政策は、債券市場そして債券価格に大きな影響を与えます。よって債券投資を行う際は、FBRなどの中央銀行の動向を注視する必要があります。更に中央銀行の動向を踏まえた上で、金利やイールドカーブの状態に対する理解も必要です。これらを踏まえて債券投資を行い、良好な投資パフォーマンス獲得を目指しましょう。
石井僚一
金融・投資ライター
大手証券グループ投資会社への勤務を経て、個人投資家・ライターに。株式関連、為替関連、資産運用関連を中心に執筆中。Yahoo!トップページに掲載実績あり。第一種証券外務員資格保有。
大手証券グループ投資会社への勤務を経て、個人投資家・ライターに。株式関連、為替関連、資産運用関連を中心に執筆中。Yahoo!トップページに掲載実績あり。第一種証券外務員資格保有。
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中央銀行が世の中に直接的に供給するお金のこと。 具体的には、市中に出回っているお金である流通現金(「日本銀行券発行高」+「貨幣流通高」)と日本銀行当座預金(日銀当座預金)の合計値。 マネタリーベース=「日本銀行券発行高」+「貨幣流通高」+「日銀当座預金」
量的緩和
中央銀行が金融市場に多くの資金を供給し(マネーサプライを増大させ)、景気回復を目指す金融政策のこと。 政策金利がゼロ金利となり、これ以上金利を下げる余地がない際に、当座預金残高量を拡大することで、金利の引き下げや銀行貸し出しの増加などの効果を期待して中央銀行が実施する。 2013年には日本銀行が量的・質的緩和として、資金の供給を増やす際に、長期国債やリスク性資産であるETF(上場投資信託)など、買い入れ額を拡大する対象も考慮した金融緩和策を実施した。2022年現在では量的緩和は縮小傾向にあり、金融引き締め期に世界的に突入している。