個人年金保険とiDeCoは選ぶならどっち?選び方や併用時の注意点を解説
難易度:
執筆者:
公開:
2024.11.06
更新:
2024.11.06
公的年金の上乗せとなる私的年金を用意するための、代表的な手段が個人年金保険とiDeCo(個人型確定拠出年金)です。
個人年金保険は保険会社を通じて加入し、iDeCoは金融機関や保険会社を通じて加入します。いずれも「自分専用の年金を作る」という点は共通していますが、加入対象者や税金の取り扱いなどが異なります。
自分に合った方法で老後に向けた資産形成を行うためにも、それぞれの違いを確認しておきましょう。
今回は、個人年金保険とiDeCoの特徴を比較しつつ、それぞれ向いている人の特徴を解説します。
年金を増やすなら、個人年金保険とiDeCoどっち?特徴を比較
個人年金保険と同じく、現役の頃から老後生活に向けて資産形成できる制度としてiDeCo(個人型確定拠出年金)があります。
「個人年金保険とiDeCoの違いがよくわからない」という方へ向けて、それぞれの特徴を比較したうえで解説します。
個人年金保険 | iDeCo | |
---|---|---|
保険料・掛金 | 保険会社が定める範囲内で加入者が決定する | 12,000円~68,000円/月(働き方によって異なる) |
加入対象者 | 保険会社により異なる | ・60歳未満の方 国民年金第2号被保険者で60歳以上65歳未満の方 ・60歳以上65歳未満で国民年金に任意加入している方 ・国民年金に任意加入している海外居住の方 |
受取方法 | 有期年金や確定年金など(保険会社により異なる) | ・一時金 ・年金(5年以上20年以下の期間で運営管理機関が定める方法) ・一時金と年金の併用 |
途中解約 | 可能 | 原則不可能 |
運用主体 | 保険会社 | 加入者自身 |
口座開設手数料・口座維持手数料 | なし | あり |
個人年金保険とiDeCoは、いずれも加入者が決めた保険料(掛金)を支払いながら自分専用の年金を用意できます。
個人年金保険は途中解約が可能(ただし元本割れの可能性がある)な一方で、iDeCoは原則解約ができません。
また、iDeCoは運営管理機関(金融機関)の選定から運用商品の選択など、加入者による選択の幅が広いです。一方、個人年金保険は、変額保険の場合は運用タイプを選べるものの、基本的には保険会社に詳細をお任せします。
個人年金保険とiDeCoの税制及び税制優遇制度の違い
個人年金保険とiDeCoにはいずれも税制優遇制度がありますが、それぞれ違いがあります。受取時の課税関係も異なるため、加入前に確認しておきましょう。
個人年金保険 | iDeCo | |
---|---|---|
保険料・掛金拠出時の税制優遇 | 所得税:最大40,000円 住民税:最大28,000円 | 全額が小規模企業等掛金控除の対象 |
運用中の税制優遇 | なし | 運用益が非課税 |
受取期の税制優遇 | 年金受取:公的年金等控除の対象 一時金受取:一時所得の特別控除の対象 | 年金受取:公的年金等控除の対象 一時金受取:退職所得控除の対象 |
受取時の課税(控除適用前) | 運用益に対して課税される | 積立額と運用額の合計に対して課税される |
年金積立期間の節税効果が大きいのはiDeCoです。拠出した掛金の全額が課税所得から控除(小規模企業等掛金控除)の対象となるため、個人年金保険料控除よりも大きな節税効果を得られます。
一方で、年金及び一時金受取時には、iDeCoは積立金額も課税対象となるのに対し、個人年金保険は運用益のみが課税対象となります。ただし、iDeCoを年金で受け取る場合でも、一時金で受け取る場合でも、加入期間によって税制優遇措置もあります。
毎月2万円(年間24万円)を保険料(掛金)として支払ったケースで、それぞれの節税効果を比較してみましょう。
【課税所得が600万円(所得税率20%)の方の場合】
所得控除額 | 控除なしの所得税額 | 控除後の税額 | 節税額 | 10年間の節税総額 | |
---|---|---|---|---|---|
iDeCoの場合 | 240,000円 | 1,200.000円 | 1,152,000円 | 48,000円 | 480,000円 |
個人年金の場合 | 40,000円 | 1,200,000円 | 1,192,000円 | 8,000円 | 80,000円 |
【課税所得が800万円(所得税率23%)の方の場合】
所得控除額 | 控除なしの所得税額 | 控除後の税額 | 節税額 | 10年間の節税総額 | |
---|---|---|---|---|---|
iDeCoの場合 | 240,000円 | 1.840.000円 | 1,784,800円 | 55,200円 | 552,000円 |
個人年金の場合 | 40,000円 | 1.840.000円 | 1,830,800円 | 9,200円 | 92,000円 |
【課税所得が1000万円(所得税率33%)の方の場合】
所得控除額 | 控除なしの所得税額 | 控除後の税額 | 節税額 | 10年間の節税総額 | |
---|---|---|---|---|---|
iDeCoの場合 | 240,000円 | 3.300.000円 | 3,220,800円 | 79,200円 | 792,000円 |
個人年金の場合 | 40,000円 | 3.300.000円 | 3,286,800円 | 13,200円 | 132,000円 |
節税できる金額に、年間で数万円の差が生まれることがわかります。
さらに、iDeCoでは運用益に対して課税されません。運用がうまくいき大きな利益を得られたとしても、運用益はそのまま年金(または一時金)受け取りの原資となります。
制度を全体的に比較すると、基本的に税制優遇のメリットに関してはiDeCoが上回っているといえるでしょう。
個人年金保険とiDeCoを併用するメリット
個人年金保険とiDeCoは同時に加入でき、控除も併用できます。つまり、個人年金保険料控除と小規模企業等掛金控除をそれぞれ活用し、より大きな節税効果を得ることが可能です。
iDeCoのほうが節税メリットは大きいため、iDeCoを優先的に活用するとよいでしょう。さらに保険料を支払う余裕がある場合、個人年金保険への加入を検討してみてください。
併用すれば、「個人年金保険では安定的に老後資金を用意し、iDeCoではリスクを取って積極的に運用する」というバランスの取れた資産形成を行えます。
個人年金保険とiDeCoを併用するときの注意点
個人年金保険とiDeCoを併用すると、保険料と掛金が家計に与える影響が大きくなります。iDeCoは原則60歳まで引き出せず、個人年金保険は短期間で解約すると元本割れする恐れがある点に留意すべきです。
保険料と掛金の負担が重く、家計に余裕がない状況でお金が必要になると対応できません。やむを得ず、元本割れを受け入れたうえで個人年金保険の解約を余儀なくされ、結果的に資産を失う事態になりかねません。
それぞれを併用する場合は、長期的に無理なく支払えるかどうかを確認し、当面の生活に支障が出ないように気をつけましょう。
個人年金保険とiDeCoの片方を選択する場合の選び方
2022年度末において、個人年金保険の契約件数は約2005万件、iDeCoの加入者は約239万人でした。個人年金保険に加入している人が多いようですが、どちらが向いているのかは価値観や投資経験の有無などによって異なります。
以下で、個人年金保険とiDeCoをおすすめできる人の特徴をそれぞれ解説します。
どちらか選ぶなら個人年金保険がおすすめな人
個人年金保険がおすすめな人の特徴は以下のとおりです。
- 将来受け取れる金額を確定させたい人
- 自分で投資判断を下せる自信がない人
- 手間をかけたくない人
- 信頼できる保険会社の担当者がいる人
- 途中解約の事態に備えたい人
個人年金保険では、契約時に将来受け取れる年金額が決まります。将来受け取れる金額を確定させたほうが安心できるという方に向いているでしょう。
iDeCoの場合は自分で運用管理機関や運用商品を選定する必要がありますが、個人年金保険では「保険会社と契約して、保険料を毎月支払うだけ」で済みます。手間をかけずに老後資金を用意したいと考えている方に向いている可能性があります。
既にほかの保険に加入しており、信頼できる保険会社の担当者がいる場合は、担当者と相談したうえで加入を判断するのも一つの手段です。不安がある場合は、担当者に資産状況やライフイベントを一緒に考えてもらうとよいでしょう。
途中解約はできるだけ避けるべきですが、どうしても資金が必要になったときにお金を引き出したい場合は個人年金保険が向いています。iDeCoは原則60歳になるまで引き出せず、柔軟に資金ニーズへ対応できないためです。
どちらか選ぶならiDeCoがおすすめな人
iDeCoがおすすめな人の特徴は以下のとおりです。
- 自分で投資判断を下せる人
- 効率よく資産形成を行いたい人
- 節税メリットを最大限活かしたい人
- 所得税率が高い人
- 老後資金作りに注力したい人
自分で投資判断を下せる方は、加入者が柔軟に運用商品を選べるiDeCoが向いています。株式や債券、不動産へ投資する割合を自分のリスク許容度に合わせて調整できるため、自由度の高さを優先したい方はiDeCoを始めましょう。
例えば、iDeCoで毎月2万円を「年率1%」「年率3%」「年率5%」で運用したときのシミュレーション結果は以下のとおりです。
5年後 | 7年後 | 10年後 | |
---|---|---|---|
1% | 約1,224,241円 運用益:約24,241円 | 約1,731,248円 運用益:約51,248円 | 約2,510,931円 運用益:約110,931円 |
3% | 約1,274,192円 運用益:約74,192円 | 約1,838,990円 運用益:約158,990円 | 約2,751,331円 運用益:約351,331円 |
5% | 約1,326,151円 運用益:約126,151円 | 約1,954,082円 運用益:約274,082円 | 約3,018,694円 運用益:約618,694円 |
さらに、iDeCoには運用益が非課税になるメリットがあります。効率よく資産形成を行ううえで効果的な税制優遇なので、有効活用することをおすすめします。
個人年金保険は年間でいくら保険料を支払っても所得控除の上限がありますが、iDeCoは掛金の全額が所得控除の対象です。特に所得税率が高い方は節税額も大きくなるため、よりメリットを感じられます。
iDeCoは原則60歳まで引き出せませんが、逆にいえば着実に老後資金を用意できます。途中解約をする予定がなく、老後資金作りに注力したい方は活用するのがおすすめです。
まとめ
老後生活に向けた資産形成の手段として、個人年金保険は一つの選択肢です。メリットとデメリットを踏まえて、加入する必要性があるか考えてみてください。
似たような制度にiDeCoがあります。節税メリットが大きいのはiDeCoですが、場合によっては個人年金保険のほうが向いているケースもあります。
それぞれの特徴を比較し、よりご自身に合っているほうを選びましょう。
柴田充輝
金融系ライター
厚生労働省や保険業界・不動産業界での勤務を通じて、社会保険や保険、不動産投資の実務を担当。FP1級と社会保険労務士資格を活かして、多くの家庭の家計見直しや資産運用に関するアドバイスを行っている。金融メディアを中心に、これまで1,000記事以上の執筆実績あり。
厚生労働省や保険業界・不動産業界での勤務を通じて、社会保険や保険、不動産投資の実務を担当。FP1級と社会保険労務士資格を活かして、多くの家庭の家計見直しや資産運用に関するアドバイスを行っている。金融メディアを中心に、これまで1,000記事以上の執筆実績あり。
関連記事
関連する専門用語
個人年金保険
老後の必要な生活資金に対し、公的年金に上乗せ補完する目的で、自身で準備する保険。保険契約者は、毎月保険料を一定年齢まで払い込み、受取開始時期になると、一定期間または終身にわたって年金形式または一括で受け取ることが可能。 個人年金保険には、運用方法や受取期間などによってさ様々なタイプが存在。
確定拠出年金
確定拠出年金(Defined Contribution)とは、受給者自身が資産を運用する年金制度で、個人型と企業型に分けることができる。受給者は、自らや企業が搬入した掛け金を運用し、受給要件を満たした際に給付金を受け取ることができる。給付額はそれぞれの運用法によって異なるので、老後の給付額は現役時代には確定しない。 受給者に対するメリットとしては、確定拠出年金(DC)は確定給付年金(DB)と比べて受給権が確立されていることや、自身のDC資産のみを管理すればいいことが挙げられるが、価格変動が生じるため給付額が見込みでしか計算できないというデメリットがある。
iDeCo
iDeCo(イデコ)は、個人型確定拠出年金の愛称で、老後の資金を作るための私的年金制度です。20歳以上65歳未満の人が加入でき、掛け金は65歳まで拠出可能。60歳まで原則引き出せません。 加入者は毎月の掛け金を決めて積み立て、選んだ金融商品で長期運用し、60歳以降に年金または一時金として受け取ります。加入には金融機関選択、口座開設、申込書類提出などの手続きが必要です。 投資信託や定期預金、生命保険などの金融商品で運用し、税制優遇を受けられます。積立時は掛金が全額所得控除の対象となり、運用時は運用益が非課税、受取時も一定額が非課税になるなどのメリットがあります。 一方で、証券口座と異なり各種手数料がかかること、途中引き出しが原則できない、というデメリットもあります。