
米国(アメリカ)の雇用統計や失業率が株価や為替に与える影響を解説
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執筆者:
公開:
2024.03.18
更新:
2025.03.13
世界経済の中心である米国の経済指標は、グローバル化が進んだ現代において、日本の個人投資家にとっても非常に重要です。中でも、米国雇用統計は、世界で発表されている経済指標の中で最も注目度が高いと言われています。
なぜ米国雇用統計が重要視されているのでしょうか?その理由は、この指標がアメリカ連邦準備制度理事会(FRB)の金融政策決定に大きな影響を与えるからです。FRBの政策は、世界経済に波及効果をもたらすため、米国雇用統計は世界中の投資家が注目する指標となっています。
本記事では、米国雇用統計の概要、重要性、および市場との関連性について解説します。
1.米国(アメリカ)の雇用統計とは?
米国の雇用統計はアメリカの労働統計局(BLS)から発表される労働市場の雇用の状況やトレンドを示す経済指標です。雇用統計は事業所調査と家計調査に分かれて調査されています。
雇用統計は毎月第一金曜日に発表されるデータであり、労働市場の数字を表しているため、米国経済全体の状況を俯瞰する大事な数字となっています。
米国の雇用統計はどんなスケジュールで発表される?
米国雇用統計は、基本的に毎月の第1金曜日に発表されます。ただし、発表時間は夏時間と冬時間で異なり、夏時間は日本時間の21時30分、冬時間は日本時間の22時30分になります。
米国雇用統計の事業所調査と家計調査
米国雇用統計は、労働市場の状況を包括的に把握するために、「事業所調査」と「家計調査」という2種類の調査から構成されています。この2つの調査は、調査対象や収集するデータの内容が異なっており、それぞれが労働市場の異なる側面を捉えています。
米国雇用統計の事業所調査とは?
事業所調査は、企業や政府機関を対象とした調査です。この調査では、「農業関連を除く非農業部門の雇用者数」、「平均時給」、「平均労働時間」などのデータを収集します。事業所調査は、毎月14万以上の事業所を対象に行われ、雇用者数の変動や賃金の動向など、労働需要側の状況を把握することができます。これらのデータは、経済全体の雇用状況を理解する上で重要な指標となっています。
米国雇用統計の家計調査とは?
一方、家計調査は、一般世帯を対象とした調査です。この調査では、16歳以上の生産年齢人口を対象に、労働力人口と非労働力人口に分類し、さらに労働力人口を就業者と失業者に分類します。家計調査は、毎月6万世帯以上を対象に実施され、「失業率」や「労働参加率」などのデータを収集します。これらのデータは、労働供給側の状況を把握する上で重要な指標となっています。
事業所調査と家計調査の違いと活用法
事業所調査と家計調査は、調査対象や収集するデータの内容が異なりますが、両者を組み合わせることで、労働市場の需要側と供給側の両面から総合的に雇用状況を理解することができます。これらの調査結果は、経済政策の決定や企業の雇用戦略、個人の就労判断などに広く活用されています。
米国雇用統計の主要なデータ
次に雇用統計で発表される主要なデータについて説明します。
発表される主要なデータには以下のようなものがあります。
- 非農業部門雇用者数-
- 失業率
- 平均時給
- 労働参加率
以下でそれぞれについて解説します。
非農業部門雇用者数:農業関連以外での雇用数の増減
農業関連以外での雇用数の増減を示したもので、民間企業や政府関連の雇用者の数字を表しています。雇用者が増加すればするほど景気が良いと判断され、減少すれば景気が悪化していると判断されます。
失業率:失業者÷労働力人口で算出 U1〜U6の分類あり
失業率は失業者÷労働力人口で算出される数字であり、上昇した場合、失業者の増加と就業者数の減少を意味しているため、景気は悪化していると判断されます。一方、失業率が低下している場合は、就業者数の増加と失業者の減少を意味しており、景気が上向いていると判断されます。
また失業率は以下のような失業率に分類されています。
分類 | 詳細 |
---|---|
U1:長期失業者の割合 | 15週間以上仕事を探し続けている人の割合。長期的な失業状態にある人の割合を表す。 |
U2:失職や契約満了による失業者の割合 | 仕事を失ったり、契約期間が終了したことで職を失った人の割合。非自発的失業者の割合を示す。 |
U3:一般的な失業率 | 仕事を探しているが、まだ見つかっていない人の割合。最もよく使われる失業率の指標。 |
U4:求職意欲を失った人を含む失業率 | U3の失業者に加え、仕事を探すのを諦めてしまった人の割合も含めた失業率。 |
U5:縁辺労働者を含む失業率 | U4に加え、仕事を探していないが、働く意欲はある人(縁辺労働者)の割合も含めた失業率。 ※縁辺労働者とは、仕事があればすぐ就くことができ、直近1年間に求職活動をしたが、過去4週間は仕事を探していないため失業者とならない人を指す。(現在仕事を探していない理由を問わない点が「求職意欲喪失者」と異なる) |
U6:縁辺労働者・経済的な理由による短時間就業者を含む失業率 | U5の失業率に加え、経済的な理由で仕方なくパートタイムで働いている人の割合も含めた、最も広い範囲での失業率 |
参考:総務省統計局 労働力調査 第8章 諸定義の発展と国際基準
平均時給:農業関連以外の時給の変動
平均時給は農業関連以外の時給の変動を示したものです。平均時給をチェックする理由として、時給が上昇している場合は商品やサービスの売り上げが増加しており、消費行動が上昇した結果、時給が上昇することに繋がるため景気のパラメータとして重要です。そして労働市場の需給をチェックする上でも重要な指標となっています。
一方で時給が減少している場合は、民間企業の業績が悪化している可能性が想定され、労働市場の需給が緩んできている可能性があるため、景気悪化のサインの一つになる場合もあります。
労働参加率:16歳以上の労働力人口の割合
労働参加率とは16歳以上の労働力人口の割合を示したもので、労働力人口÷16歳以上の人口から算出されたものです。労働参加率が上昇している場合は景気が良好と判断し、低下した場合は景気が悪化するサインの一つとして捉えられていますが、経済状況に応じて見方が変わるため、一概に労働参加率の上下だけで判断できないとも言えます。
そのため労働参加率の見方は、経済情勢やその他経済指標の数字を鑑みながら総合的に判断する必要があります。
2.米国(アメリカ)雇用統計の重要性
なぜ雇用統計が経済指標で最も重要と言われているのか解説します。
雇用統計が重要と考えられている理由は、FRB(アメリカ連邦準備制度理事会)の金融政策に関連するためです。
労働市場は個人消費を占う上でもダイレクトに数字に反映してくる内容でもあるため、FRBは経済指標の中でも一番注視している経済指標となっています。
また雇用というのは通常、企業側もできる限り守っていくべきものですが、この労働市場で解雇が増加したり、失業者が増加するということは、雇用者が減少していることを意味します。
経済のサイクルでは「投資→生産→利益→雇用・賃金」という流れでサイクルが発生し、最後の賃金部分が増加することで消費に回り、投資が生まれるというものになります。
そのため、雇用統計はこの最後の「雇用・賃金」部分が数字として表れるため、とても重要な指標となっています。
3.雇用統計と市場の動きの関連性
次に雇用統計の数字と市場の動きの関連性について整理します。
まず雇用統計全体の数字が良好な数字が出た場合は「金利上昇」、「株高」、「ドル高」が基本的な動き方です。
しかし主要な項目が複数あるため、それぞれの数字のインパクトが反映された結果がプライスアクション(値動き)に反映されます。
雇用統計が金利・株価・為替に与える影響
下記は項目毎における市場毎の価格の動きを示しており、基本的な動き方は以下のようになっています。
増加(上昇) | 減少(低下) | |
---|---|---|
非農業部門雇用者数 | 「金利上昇」「株高」「ドル高」 | 「金利低下」「株安」「ドル安」 |
失業率 | 「金利低下」「株安」「ドル安」 | 「金利上昇」「株高」「ドル高」 |
平均時給 | 「金利上昇」「株高」「ドル高」 | 「金利低下」「株安」「ドル安」 |
労働参加率 | 「金利上昇」「株高」「ドル高」 | 「金利低下」「株安」「ドル安」 |
米国雇用統計を見る際の注意点
ただし、注意点として経済状況によっては上記とは異なる動きを示す場合があります。
例えば、現在のように急激なインフレが発生している場合、景気が良好な数字はインフレ率の進行を予測させるため、「金利上昇」、「株安」、「ドル高」のように動きが異なることがあります。
そのため上記の表の動きは通常の経済状態の時の基本的な動き方として理解し、経済の状況によって価格の変動が異なることを整理しておくべきでしょう。
また雇用統計だけではなく、経済指標をチェックする際全てに言えることですが、市場参加者の予想と結果がどれだけ乖離するかも重要な項目となっています。
市場参加者が雇用統計の結果が良好な数字が出ると考えている場合には、ドルをロング(買い待ち)していたり、金利上昇のポジションを保有していたりする場合が多いです。
しかし予想に反して結果が悪い数字となった場合には、当然ながらそれまでのポジションを解消する動きになることから、逆のインパクトを与えます。
一方で雇用統計の数字が可もなく不可もない数字となると予想されており、大幅に良好な数字が出てきた場合は、トレンドが出やすくなる場合もあります。
そのため雇用統計では事前の市場参加者の雇用統計や、中央銀行の政策スタンスの予想と、どれだけ実際の数字が乖離するかを把握し理解することも重要なポイントとなります。
まとめ
米国雇用統計は、世界経済の中心である米国の労働市場の状況を示す重要な経済指標であり、日本の個人投資家にとっても非常に重要です。事業所調査と家計調査の2種類の調査から構成され、非農業部門雇用者数、失業率、平均時給、労働参加率などの主要なデータを提供します。
これらのデータは、FRBの金融政策決定に大きな影響を与えるため、世界中の投資家が注目しています。また、雇用統計と市場の動きには関連性があり、良好な数字が出た場合は「金利上昇」、「株高」、「ドル高」が基本的な動き方ですが、経済状況によっては異なる動きを示すこともあります。
米国雇用統計を適切に理解し活用するためには、経済のサイクルにおける「雇用・賃金」の重要性を認識し、経済状況や市場参加者の予想と実際の数字の乖離を把握することが重要です。まずは、このような指標がどのように市場に影響を与えるかニュース等を観てみるとともに、ご自身の資産運用にもぜひご活用ください。

MONO Investment
投資のコンシェルジュ編集部は、投資銀行やアセットマネジメント会社の出身者、税理士など「金融のプロフェッショナル」が執筆・監修しています。 販売会社とは利害関係がないため、主に個人の資産運用に必要な情報を、正確にわかりやすく、中立性をもってコンテンツを作成しています。
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FRB(Federal Reserve Board/米連邦準備制度理事会)
FRB(Federal Reserve Board、米連邦準備制度理事会)は、米国の中央銀行制度であるFRS(Federal Reserve System)の中核をなす組織である。FRSは、ワシントンD.C.にあるFRB(理事会)と、全米に分布する12の地区連邦準備銀行(連銀)から構成される。 FRBの主な役割は、金融政策を通じて米国経済の安定を図ることであり、その目的として「最大雇用(Maximum Employment)」と「物価の安定(Stable Prices)」という2つの目標(デュアルマンデート)を掲げている。これらの目標を達成することで、米国経済の持続的な成長を促す。 FRBは、日本の日本銀行に相当する機関であり、政府から独立した中央銀行として運営されている。ただし、完全に独立しているわけではなく、議会に対して定期的に金融政策の報告を行うなど、説明責任を負っている。
FOMC(Federal Open Market Committee/連邦公開市場委員会)
FOMC(Federal Open Market Committee、連邦公開市場委員会)は、米国の金融政策を決定する最高意思決定機関です。米連邦準備制度(FRB)が、インフレ抑制・雇用最大化・経済安定化を目的に、政策金利(FF金利)の調整や金融市場の流動性管理を行います。 FOMCは年8回開催され、米国の景気・物価動向・雇用状況を評価し、政策金利の変更や量的緩和・量的引き締めなどの金融政策を決定します。会合後には声明が発表され、議長の記者会見が行われます。 FOMCの決定は、米国経済だけでなく、世界の金融市場にも大きな影響を与えます。市場予想と異なる決定が出た場合、株式市場・債券市場・為替市場が大きく変動することがあります。一般的に、利上げが発表されると株価は下落し、ドル高が進行し、債券価格は下落します(利回りは上昇)。反対に、利下げが発表されると株価は上昇し、ドル安が進行し、債券価格は上昇します(利回りは低下)。 日本では「日銀金融政策決定会合」がFOMCに相当しますが、決定プロセスには違いがあります。FOMCはFRB理事7名と地方連銀総裁5名の計12名による投票で政策を決定し、金融政策の透明性が高いのが特徴です。