インフレに強い債券「物価連動債」の特徴と仕組みを解説
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公開:
2024.04.05
更新:
2024.07.17
物価連動債(物価連動国債)は、インフレ率(物価上昇率)に連動して元本や利払い額が調整される特殊な国債です。日本では、物価連動国債として財務省が発行し、全国消費者物価指数(コアCPI)に基づいて元金額や利払い額が増減します。
これにより、インフレ時でも物価連動債の実質的な価値は維持され、受け取る利子も増える可能性があるため、インフレリスクに対するヘッジ手段とされています。ただし、その仕組みは一般的な国債とは異なり複雑で、運用には独特の特性と注意点があります。
本記事では、物価連動債の仕組みや利回りの考え方、メリット・デメリットをわかりやすく解説します。
物価連動債の仕組みと利回りの考え方
物価連動債は、物価上昇率(インフレ率)に連動して元本や利払い額が調整される特殊な債券です。ここでは、物価上昇率(インフレ率)をどのように捉えて、元金や利回りが変動していくのか、その仕組みを解説します。
物価連動債の仕組み
物価連動債(インフレ連動債)は、物価上昇率(インフレ率)に応じて、元本が調整される債券です。物価上昇に連動して元本が増加するため、利払い額や償還額も増加します。つまり、インフレが発生しても実質的な価値が低下しない債券と言えます。
日本では、財務省が物価連動国債を発行しており、全国消費者物価指数(生鮮食品を除く総合指数:コアCPI)の動きに応じて、元金額や利払い額が増減します。
消費者物価指数(CPI)とインフレ率
消費者物価指数(CPI)は、物価の変動を測る指標で、家庭が購入する消費財やサービスの価格を総合した物価の変動を時系列的に測定するものです。物価連動債に関係するのは、消費者物価指数(CPI)から生鮮食品を除いた総合指数である「コアCPI」です。
生鮮食品は価格変化が大きいため、それを除くことで、物価の状況を正確に計測できるとされています。物価連動債が、コアCPIの動きに応じて変化するのは、物価の変化を正確に捕捉することで、債券の価値と物価の連動性を高めるためです。
物価連動債の利回りとコアCPIの関係
物価連動債は、元金額が物価(生鮮品を除く全国消費者物価指数=コアCPI)の動きに連動して増減します。具体的には、コアCPIが1年後に2%上昇した場合、元金額も同じ率で増加します。この変動した元金額を「想定元金額」と呼びます。表面利率(年利子率)は償還まで同じですが、想定元金額が増えるため、受け取る利子も多くなります。
通常の固定利付き国債と物価連動債どちらが有利?判断指標「ブレークイーブンインフレ率」
ブレークイーブンインフレ率(BEI:Break Even Inflation rate)は、物価連動国債と通常の固定利付国債の間で、どちらがより良い投資であるかを判断するための指標です。物価連動国債の利回りと同じ残存期間の固定利付国債の利回りの差によって以下の式で計算されます。
BEI = 固定利付国債利回り(名目金利) − 物価連動国債利回り(実質金利)
ブレークイーブンインフレ率は、物価連動国債の売買参加者が予測する今後のインフレ率を示しています。つまり、市場がどの程度の物価上昇(インフレ)を見込んでいるかを示すデータです。
ブレークイーブンインフレ率がプラスの場合は、市場が今後インフレになると考えており、マイナスの場合は、市場が今後デフレになると考えていることを示します。
各国の中央銀行(日銀・FRBなど)は、ブレークイーブンインフレ率の変動を把握し、予想インフレ率の目標値を定めて金融政策を行うことが多いです。
物価下落から元本を守るセーフティネット「フロア」
物価連動債には「フロア」というセーフティネットが組み込まれています。
フロアは、物価連動債の特性の一つで、発行から償還に至るまで物価水準によって元金額が変動するものの、元金額が一定の下限(フロア)を下回らないように設定されています。
物価連動債は、物価上昇時、つまりインフレの時にはプラスのインフレ率に連動して元本価格が上昇しますが、物価下落時、つまりデフレの時にはマイナスのインフレ率に連動して元本価格が下がっていきます。
しかし、フロアがあることにより、物価連動債の投資家は、物価下落による元本の減少リスクをある程度緩和することができます。
物価連動債のメリット・デメリット
物価連動債は、インフレによる資産価値の減少を防ぐ手段として有力な選択肢です。注目されています。これは物価(コアCPI)に直接連動し、インフレが進行すると元金額と利子が増加するためです。さらに、デフレ時にも「フロア」と呼ばれるセーフティーネットが設けられており、元本が保証されています。
このように、物価連動債はインフレ・デフレのリスクをバランスよくカバーする投資商品である一方で、金利変動や購入条件など、注意すべきポイントも多く存在します。
ここでは、物価連動債のメリットとともに、デメリットもご説明します。
物価連動債のメリット
物価連動債のメリットは前述の通り大きく2つです。
- インフレに強く資産が目減りしない
- デフレ時にも元本保証のセーフティネット「フロア」がある
インフレに強く資産が目減りしない
物価連動債はインフレによる資産価値の減少を防ぐことができます。物価(コアCPI)と直接的に連動しているため、インフレが進行しても元金額と利子が増加します。通常、各国の政府・中央銀行は2%程度のインフレ率を狙って政策を調整しています。2%のインフレが5年続くと10%、10年続くと21%の変化になります。固定金利の一般国債だと、10年で元本の価値が21%下落することになり、利回りが悪くなります。しかし、物価連動債だと物価と連動しているため、良い利回りで運用することが出来ます。
デフレ時にも元本保証のセーフティーネット「フロア」
物価連動債には「フロア」と呼ばれるセーフティーネットがあり、償還時に額面金額を下回ることがないように設計されています。
通常、物価の持続的な下落、つまりデフレにならないように各国は動いていきます。しかし、政策の失敗など特殊なケースにおいてはデフレが発生します。インフレ・デフレによる不利益が極力発生しないように設計されているのが物価連動債です。
物価連動債のデメリット
実質的な元本保証がありインフレに強い物価連動債ですが、インフレ・デフレリスクに焦点を当てた結果発生したデメリットも存在します。
- 金利変動の耐性がない
- 既発債の場合元本が欠損する可能性
- BEIより低いインフレ率だと不利
- 購入単位が大きい
以下で詳しく説明します。
金利変動の耐性がない
物価連動債はインフレに対する耐性はありますが、金利が上昇した場合、債券価格は下がります。通常時には2%程度のインフレ率を狙って各国の政府・中央銀行は動いています。しかし、戦争や災害などの要因により、急に高いインフレ率になる事も起こりえます。インフレ率の過剰な上昇を食い止めようと政策金利の上昇が起こることも。その際は、インフレ率と金利のバランスによって物価連動債の価格も左右されます。
既発債の場合元本が欠損する可能性
物価連動債は償還時にはフロアによって額面を下回ることはありません。しかし、購入時の単価によっては、元本が欠損する可能性があります。損益分岐点がどこにあるのかを計算し、元本割れを防ぐ必要があります。
BEIより低いインフレ率だと不利
物価連動債はインフレ率が高いほど利回りが高くなります。一方でインフレ率が低いと、利回りも低くなり一般国債より不利なケースが発生してきます。BEIよりインフレ率が低い場合一般債券の方利回りが良いことが多いです。
購入単位が大きい
物価連動国債の購入単位は額面金額ベースで10万円からと設定されています。個人向け国債が1万円から購入可能なため、物価連動債の方が比較的大きな単位で購入する必要があります。
まとめ
物価が上昇していくと、預金や債券の実質的な資産価値は下がっていくことが、不安要素の1つに挙げられます。
そんななかで、物価連動債は、インフレ率に連動して元本や利払い額が調整されるため、インフレによる資産価値の減少を防ぐ有力な選択肢の一つです。物価(コアCPI)に直接連動し、インフレが進行すると元金額と利子が増加するメリットがあります。また、デフレ時にも「フロア」と呼ばれるセーフティーネットが設けられており、元本が保証されているのも大きな特徴です。
一方で、金利変動リスクや既発債の元本欠損の可能性、BEIより低いインフレ率での不利益、比較的大きな購入単位など、注意すべきデメリットも存在します。
物価連動債は、インフレ・デフレのリスクをバランスよくカバーする投資商品ですが、自身のリスク許容度や投資目的に合致しているかを慎重に検討する必要があります。ブレークイーブンインフレ率(BEI)などの指標を活用し、市場予測と照らし合わせながら、適切な投資判断を下すことが肝要です。
資産運用初心者の方は、物価連動債の仕組みやメリット・デメリットを十分に理解し、自身のポートフォリオにどのように組み込むべきかを慎重に検討してみてください。必要に応じて、金融のプロにアドバイスを求めることも有効な方法の一つです。
投資のコンシェルジュ編集部
MONO Investment
投資のコンシェルジュ編集部は、投資銀行やアセットマネジメント会社の出身者、税理士など「金融のプロフェッショナル」が執筆・監修しています。 販売会社とは利害関係がないため、主に個人の資産運用に必要な情報を、正確にわかりやすく、中立性をもってコンテンツを作成しています。
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