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不動産投資は相続税対策になる?節税の仕組みと失敗例を解説!

難易度:

執筆者:

公開:

2024.01.12

更新:

2024.09.25

不動産投資節税相続

目次

不動産投資による節税とは?

節税とは

不動産投資で生じる税金の種類と節税のポイント

不動産投資を行う際の節税効果

損益通算で所得税・住民税を節税できる

減価償却費の計上で所得税・住民税を節税できる

小規模住宅用地は固定資産税・都市計画税を抑えられる

青色申告で最大65万円の所得控除が受けられる

注意1:投資型マンションでは住宅ローン減税は使えない

注意2:損益通算による所得税・住民税の節税効果が高い人・低い人

不動産による相続税の節税効果

現預金よりも土地・建物の方が相続税の節税になる

土地・建物は貸すことでさらに相続税の節税効果が高まる

注意:相続税の節税効果がある人・ない人

不動産を売却する際の節税

不動産の所有期間5年超で譲渡所得税の節税が可能

特定事業用資産の買換え特例で納税の先延ばしも可能

不動産投資で節税を気にしすぎるあまり起こる失敗例

節税効果を気にするあまりに赤字になるような不動産投資をしてしまう

節税効果のセールストークを鵜呑みにして勧められるがままに不動産投資をしてしまう

節税効果があまり得られないのに節税目的で投資を始めてしまう

まとめ

不動産会社などから不動産投資を勧められる場合、下記のようなセールストークを耳にすることがあるのではないでしょうか。

「損益通算で所得税を節税できる」 「相続税の節税対策として使える」 「投資物件を長期保有することで節税できる」

実際のところ、不動産投資で利用できる税制上の優遇措置や節税手段は少なくありません。

ただし、それぞれの節税効果は誰にでも当てはまるというわけではなく、人によっては節税効果が得られなかったり、得られてもインパクトがとても小さかったりすることがあります。

節税効果のセールストークを鵜呑みにして不動産投資を始めてしまうと、節税で得られる効果よりも大きなリスクを抱えてしまうこともあるため注意が必要です。

不動産投資を検討する際には、不動産投資に関する税金や節税効果についてあなたにとってのメリットデメリットを正しく把握しておくことがおすすめです。

不動産投資に関わる税制とそこから活用できる節税手段について解説します。この記事を読んでいただくと、相続対策や所得税減税に不動産投資がどのように活用できるのかを理解できます。

不動産投資による節税とは?

節税とは

そもそも節税とは、税制上の優遇措置などを利用して租税負担を軽減したり、排除したりすることです。税法にのっとって納税額を少なくする方法で、本来納めるべき税金をごまかしたり納めなかったりする不正行為、脱税とは全く異なるものです。適切に節税方法を活用することで余分な支出を抑えられます。

注意したいのは、税制上の優遇措置には期限付きのものもあり、いつまでも使えるとは限らない点です。また、税制の改正で税制措置が変わることもあります。古い制度に基づいて処理をすると、節税のつもりでも脱税や不正行為とみなされてしまうこともあるため注意しましょう。適切に節税するためにも、最新の税制をチェックしたり、専門家に相談したりすることがおすすめです。

不動産投資で生じる税金の種類と節税のポイント

不動産投資の節税効果を知るためにも、まず不動産投資においてどのような税金が発生するのか把握しておきましょう。

不動産投資では、不動産の購入、運用、売却、相続のそれぞれのタイミングで各種税金が発生します。下記の表は、不動産投資で生じる税金の種類と節税のポイントをまとめたものです。

それぞれ有効な節税対策がありますが、特によく注目されるのは、家賃収入が得られる不動産運用時の所得税・住民税についての節税効果と、相続時における相続税の節税効果です。

不動産投資で生じる税金の種類と節税のポイント

タイミング発生する税金の種類節税のポイント
不動産購入時不動産取得税、登録免許税、印紙税、消費税(建物のみ)不動産取得税・登録免許税・印紙税について軽減措置が受けられる。
不動産運用時所得税、住民税、固定資産税、都市計画税・運用益が赤字になった場合は損益通算により所得税・住民税を節税できる。
・減価償却費を計上することで所得税・住民税を節税できる
・1戸200㎡以下の住宅用地を運用する場合は固定資産税・都市計画税を節税できる
・青色申告で確定申告をすると最大65万円の所得控除で節税できる
不動産売却時譲渡所得税、登録免許税、印紙税・不動産を長期保有(5年超)して売却すると譲渡所得税の税率が短期保有の半分になり節税できる
・特定事業用資産の買換え特例を使うと納税の先延ばしが可能
相続時相続税・現預金を土地・建物に換えると相続税評価額を抑えられ、節税できる
・土地・建物は賃借人がいる方が相続税評価額を抑えられ、節税できる

上記の節税ポイントのうち、不動産の購入時・運用時・売却時の節税ポイントは、「投資をするうえで発生する税金について、少しでも納税額を抑える」ための節税対策です。

不動産投資をするうえで、少しでも余分なコストを抑えるために必要な対策といえるでしょう。さらに、これらの節税効果は投資戦略を練る際の検討材料にもなります。例えば不動産を長期保有(5年超保有)すると売却時の利益にかかる税率が半分になるため、5年を超えてから売却するようにする、といった風にです。

一方、相続時の節税ポイントは、「資産を現金や預貯金で持つよりも不動産で持った方が納税額を抑えられる」 というものです。不動産投資をしないよりもした方が納税額を減らせるという節税効果です。

このため、相続税の節税効果は、不動産投資を始める目的とされることもあるでしょう。

どういった状況におけるどのような節税効果なのかを正しく把握しないと、誤った投資判断をしてしまうケースもあるため注意が必要です。

例えば、「損益通算によって所得税・住民税の節税ができる」という節税効果を、不動産投資を始める目的のように勧めるセールストークもあります。しかし、損益通算による節税は、不動産投資で赤字が出た場合の節税対策です。赤字を出さないと使えない節税効果を目的に投資を始めることは適切な判断とはいえないでしょう。

セールストークに流されないためにも、節税効果を正しく把握しましょう。次章以降では、特に注目度の高い不動産投資における節税効果について詳しく解説します。

不動産投資を行う際の節税効果

不動産投資では何より家賃収入が安定・継続的に得られることが魅力です。まずは、この不動産運用中の節税効果について紹介します。

不動産の運用時には、家賃収入で得た不動産所得に対して所得税や住民税などの税金を払う必要があります。また、不動産を保有していると固定資産税の支払いも発生します。土地の場所によっては都市計画税の納税も必要です。

これらの税金における節税ポイントは次の通りです。

損益通算で所得税・住民税を節税できる

不動産投資で赤字が出た場合、損益通算で所得税・住民税の節税ができます

所得税や住民税は、会社からもらう給料や自分で商売をして稼いだお金などの所得にかかる税金です。所得税と住民税との違いは国税か地方税かの違いで、税率や納税のタイミングは異なるものの、1年間の所得(課税所得金額)にかかる税金という点では同じです。

所得税・住民税の計算式

  • 所得税=課税所得金額×税率(※)-控除額
  • 住民税=課税所得金額×税率(10%)+均等割額−調整控除額

※累進課税:課税所得330万以上900万円未満は23%、900万以上1,800万円未満は33%など

不動産投資で得た不動産所得もこの1年間の所得(課税所得金額)に加算し、所得税と住民税の納税額を計算します。

不動産所得とは、家賃収入から諸経費を引いたもの で、赤字となることもあります。不動産所得が赤字の場合でも、課税所得金額に赤字額を合算することが可能です。この同一年の利益と損失を合算することを損益通算 といいます。

不動産所得の赤字を課税所得に合算することで、給与のみが課税所得となっていた場合よりも、赤字分の納税額を減らすことができます。

特に、もともと課税所得の水準が「900万円以上1800万円未満」の人は課税率が33%ですが、赤字の損益通算で、課税所得の水準がワンランク下の「695万円以上900万円未満」に下がる場合には、課税率が23%に下がります。この場合、税率が大幅に減少するため大きな節税効果が期待できます。 詳しくは3-6.を参照してください。

減価償却費の計上で所得税・住民税を節税できる

不動産投資では、減価償却費を費用として計上して不動産所得を抑えることで、所得税・住民税の節税ができます。

減価償却とは、建物やその付属設備など長期間使用できる資産の購入額を償却期間(耐用年数)に合わせて分割し、各期に費用として計上するための勘定項目です。減価償却費は、期間利益を正しく把握するためのもので、実際の支出を伴わない経費です。

個人の場合は、所得税法上で各期の減価償却費をその期に経費計上することが義務付けられているため、各期忘れずに計上する必要があります。 その期の減価償却を計上し忘れたからといって、翌期に前期の減価償却費もあわせて計上することはできません。なお、万が一、計上を忘れて税金を多く支払ってしまった場合には、更正請求により、払いすぎた税金を還付してもらえます。

一方、法人の場合は、法人税法上、償却期間内であればいつ減価償却してもよいという任意償却が認められているため、「今期は償却しない」といったことも可能です。 法人はこの任意償却により、減価償却費計上による赤字を回避できます。なお、任意とはいえ、1年に償却できる限度額は決まっており、まとめて複数年分の減価償却費を計上できるわけではない点に注意が必要です。

さらに、減価償却費の節税ポイントとしては、同じ金額の物件であれば、償却期間が短い木造物件や古い物件の方が、減価償却費を大きく計上でき、節税効果が高くなる ことが挙げられます。

減価償却費の節税ポイント

  • 木造>鉄骨造>RC造=HRC造の順に節税効果が高い
  • 築年数が古いほど節税効果が高い

節税効果の高さの違いは、償却期間(耐用年数)の違いから来ています。

減価償却費は下記の計算式で計算されるため、分母の償却期間(耐用年数)が小さい方が減価償却費を大きく計上でき、節税効果が高まります。

建物の減価償却費

減価償却費(1年当たり)= 建物の取得額 ÷ 償却期間(耐用年数)

減価償却のイメージ(定額法)

償却期間(耐用年数)は、建物の構造(木造・RC造など)や建物の古さ(築年数)によって異なり、例えば、建物の構造別では、下記のように、木造、鉄骨造、RC造・HRC造の順に、法定耐用年数が短くなります。耐用年数が短い順で、減価償却費が大きく計上でき、高い節税効果が見込めます。

建物の法定耐用年数

建物の構造法定耐用年数
木造22年
鉄骨造(肉厚4mm超)34年
RC造(鉄筋コンクリート造)
HRC造(鉄骨鉄筋コンクリート造)
47年

出典:国税庁「主な減価償却資産の耐用年数表

また、築年数については、築年数が大きい古い物件ほど、償却期間が短くなることが、下記の表からわかります。下記の表は、新築・中古物件の償却期間(耐用年数)の算定方法をまとめたものです。

簡便法による耐用年数の算定方法

物件の古さ減価償却期間の算定式
かなり古い中古物件
(築年数>法定耐用年数の物件)
法定耐用年数×20%
中古物件
(築年数≦法定耐用年数の物件)
(法定耐用年数-経過年数)+経過年数×20%
新築物件法定耐用年数

出典:国税庁「No.5404中古資産の耐用年数

上の表によると、例えば、築40年の木造物件の場合、「築年数40年>木造の法廷耐用年数22年」となるため、減価償却期間は、「法定耐用年数22年×20%= 4.4年 」です。また、築10年の木造物件の場合、「築年数10年≦木造の法定耐用年数22年」となるため、償却期間は「(法定耐用年数22年‐経過年数10年)+経過年数10年×20% = 14年 」です。さらに新築木造物件の場合、償却期間は木造耐用年数の 22年 となります。

このように古い物件ほど償却期間が短くなり、節税に効果的といえます。

小規模住宅用地は固定資産税・都市計画税を抑えられる

不動産投資のために不動産を保有していると毎年固定資産税を支払う必要があります。土地の場所によっては都市計画税の納税も必要です。

固定資産税・都市計画税とは、その年の1月1日時点で建物や土地を所有している人に対して課せられる地方税です。

固定資産税・都市計画税の計算式

  • 固定資産税=固定資産税評価額×税率(※1)―
    軽減額
  • 都市計画税=固定資産税評価額×税率(※2)

※1 標準税率1.4%、※2 税率の上限は0.3%

「小規模住宅用地」の場合、住宅用地の特例措置を使って、この固定資産税や都市計画税を節税できます。小規模住宅用地とは、住宅1戸につき200㎡以下の住宅用地のことを指します。特例措置の内容は次の通りです。

住宅用地の特例措置

固定資産税都市計画税
小規模住宅用地(1戸あたり200㎡以下の部分)課税標準額×1/6課税標準額×1/3
一般住宅用地(1戸あたり200㎡超の部分)課税標準額×1/3課税標準額×2/3

軽減措置によって、小規模住宅用地は、固定資産税の課税標準額を6分の1にできます。

なお、投資先の住宅用地が200㎡を上回る場合には、1戸200㎡を下回る部分は小規模住宅用地としての軽減措置を適用し、1戸200㎡を上回る部分は一般住宅用地の軽減措置を適用できます。

青色申告で最大65万円の所得控除が受けられる

会社員が不動産投資などの副業で20万円以上の収入を得た場合には、確定申告を行う必要があります。

確定申告を行う場合、青色申告と白色申告の2つの方法のどちらかを選択します。この場合、青色申告を選択すると、所得金額から最大65万円の控除が可能な優遇措置を利用できます。

また、青色申告では、赤字の年に確定申告すると最長3年間赤字を繰り越すことが可能 です。将来黒字化した時の節税対策としても利用できます。

青色申告は白色申告と異なり、事前に申請が必要だったり、複式簿記での記帳や青色申告決算書の提出が必要だったりと手間はかかるものの、確実な節税効果が得られます。

なお、不動産投資の場合、確定申告をすると、投資にかかった経費(物件見学などにかかった旅費・交通費、勉強会費、書籍購入費など)を計上できます。譲渡所得扱いの株式投資などでは計上できない勉強会などの費用が経費計上できることも大きな利点といえるでしょう。

注意1:投資型マンションでは住宅ローン減税は使えない

不動産投資においてローンを利用する場合、住宅ローン控除(住宅借入金等特別控除)が利用できない 点に注意が必要です。

住宅ローン控除とは、住宅ローンを利用して住居を購入した場合に、年末時点での住宅ローンの残高の0.7%を最長13年間にわたって所得税や住民税から控除できる制度です。

住宅ローン控除の適用を受ける条件として、購入した住居に実際に入居し居住することが必要とされているため、投資型マンションでは利用できません。住宅を購入した本人が住むことが条件で、子どもや親が住む場合でも適用されないため、注意しましょう。

注意2:損益通算による所得税・住民税の節税効果が高い人・低い人

損益通算による所得税・住民税の節税効果についてお伝えしましたが、これらの節税効果については、効果が高く出る人とそれほど大きな効果を見込めない人とがいる点に注意が必要です。

所得税は、下記のような計算式で計算され、税率は下記の「所得税の速算表」にある通り、所得層に応じて異なります。

  • 所得税=課税所得金額×税率-控除額

【所得税の速算表】

課税所得金額税率控除額
1千円から195万円未満5%0円
195万円から330万円未満10%97,500円
330万円から695万円未満20%427,500円
695万円 から 900万円未満23%636,000円
900万円から1,800万円未満33%1,536,000円
1,800万円から4,000万円未満40%2,796,000円
4,000万円以上45%4,796,000円

出典:国税庁「No.2260所得税の税率

例えば、課税所得が900万円以上1,800万円未満の所得層の場合、不動産投資で赤字が出て損益通算で課税所得の水準が695万円以上900万円未満まで下がると、税率が33%から23%まで下がり、大きな節税効果が見込めます。

このように、損益通算で課税所得の所得層の水準がワンランク下がり、大幅に税率が下がるということがない限り、それほど大きな節税効果は期待できないこともあります。ただし、それでも、赤字を通算することによって課税対象金額自体は確実に下がるため、その分の節税効果は見込めます。

不動産による相続税の節税効果

現預金よりも土地・建物の方が相続税の節税になる

相続税とは、相続や遺贈などにより取得した財産に課される税 です。相続財産の評価額が高くなるほど税率も高くなる累進課税となっています。

不動産投資で特に注目されるのが、この相続税における節税効果です。相続財産を、現預金で相続するよりも、不動産投資をして現預金を不動産に変えて相続した方が、節税につながる といわれています。

節税につながる理由は、同じ金額の資産を現預金で相続する場合と不動産で相続する場合とでは、不動産で相続する方が相続税評価額が低くなり、納税額も低くなる からです。

相続税評価額とは、相続税や贈与税を算出するときの基準となる評価額で、現預金は額面そのままが評価額となりますが、不動産の場合は実勢価格よりもやや低く評価されます。

例えば、下記は現預金で1億円を保有する場合と、不動産で1億円を保有(内訳は土地4,000万円、建物6,000万円)する場合の相続税評価額の違い を示したものです。

現預金と不動産の相続税評価額の違い

現預金不動産
実額1億円不動産合計1億円
・土地4,000万円
・建物6,000万円
相続税評価額1億円不動産合計7,400万円
・土地3,200万円(土地価格の約80%)
・建物4,200万円(建物価格の約70%)

現預金1億円の相続税評価額は、額面通り、そのまま1億円です。

一方、土地の相続税評価額は、土地の価格の約8割になる といわれています。なぜなら、土地の相続税評価額の算定には、主に路線価が用いられるからです。路線価は、相続税などの算出のために国税庁が定める土地の価格で、一般的な土地の価格の目安となる公示価格(国土交通省が公表)の約80%に設定されています。このため、土地の相続税評価額は、土地の価格の8割といわれます。

また、建物の相続税評価額は、建物の価格の約7割になる といわれています。理由は、建物の相続税評価額の算定には固定資産評価額が用いられるからです。自治体の定める建物の固定資産評価額は、建物を再建築する場合の価格の50~70%(新築の場合は家屋の建築費の50%〜70%)を目安になるように設定されています。このため、建物の相続税評価額は、建物の価格の7割程度といわれます。

そのため、例えば、内訳が土地4,000万円、建物6,000万円の不動産1億円の相続税評価額は、上記の表の通り土地3,200万円+建物4,200万円の合計7,400万円となります。相続税評価額が下がる分だけ、相続税を節税できます。

土地・建物は貸すことでさらに相続税の節税効果が高まる

土地・建物は、他人に貸すことで、さらに相続税評価額を抑え、節税効果を高めることができます

例えば、路線価方式で評価される土地の場合、人に貸し付けていると、借地権割合分だけ相続税評価額が下がります。借地権割合とは、土地の更地評価額に対する借地権価額の割合で、路線価とともに国税庁が30%から90%の範囲であらかじめ定めているものです。

例えば、路線価による評価額3,200万円で借地権割合が60%の土地を例にしてみると、人に貸している場合の相続税評価額は1,280万円(=3,200万円×(100%-60%))となります。貸していない場合の評価額3,200万円と比べると評価額は半分以下です。

また、建物についても、自用でなく他人に貸している場合は、下記のような計算式にそって貸家としての相続税評価額が算出されます。このため、自用の建物(賃貸割合ゼロ)の相続税評価額よりも低くなるといえます。

貸家の相続税評価額

貸家の相続税評価額=固定資産税評価額×(1-借家権割合×賃貸割合)

※借家権割合:全国一律30%、賃貸割合:建物の全部屋のうち実際に貸し出されている部屋の割合

注意:相続税の節税効果がある人・ない人

相続税の節税効果についてお伝えしましたが、これらの節税効果については、そもそも相続税の支払い義務が発生しない人には効果がない点に注意しましょう。

例えば下記ケースでは、相続税が実質発生しないため、相続税の節税効果が期待できません。反対に、下記に当てはまらない場合は、相続税の節税効果があります。

相続税の節税効果が見込めない人

  • 相続税の対象財産が、「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」未満の場合。
  • 法定相続人が配偶者1名のみで、配偶者1名が全ての財産を相続する場合。

上記の「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」は、相続税の基礎控除額です。相続税は基礎控除額まではかからないため、相続財産が基礎控除額未満の場合は相続税が発生せず、節税効果もありません。

なお、上記の基礎控除額は2015年以降のもので、それ以前は基礎控除額が「5,000万円+(1,000万円×法定相続人の数)」と高額でした。そのため、以前は、例えば最低でも(法定相続人が1人の場合でも)6,000万円の財産がないと課税対象になりませんでしたが、2023年現在は最低3,600万円から課税対象となる可能性があります。基礎控除額が下がっているため、以前と比べて多くの人が相続税の課税対象となり、相続税の節税効果が期待されるといえるでしょう。

また、相続税では、「配偶者の税額軽減」という特例があります。この特例を利用すると、法定相続人が配偶者1名だけの場合は、配偶者に相続税の支払いが実質発生しないため、不動産投資の節税効果がないといえます。

「配偶者の税額軽減」の特例とは、被相続人の配偶者が相続した遺産額について、次の金額のうちのどちらか多い金額まで、配偶者に相続税がかからない制度です。

  1. 1億6千万円
  2. 配偶者の法定相続分相当額(相続人が配偶者のみの場合は遺産総額の全額。相続人が配偶者と子の場合は遺産総額の2分の1)

相続税効果を期待して不動産投資を行う際には、相続税が発生するかどうかを確認して行うようにしましょう。

不動産を売却する際の節税

不動産の所有期間5年超で譲渡所得税の節税が可能

不動産を売却する際の節税ポイントは、譲渡所得税に関するものです。譲渡所得税とは、不動産売却時の売却益にかかる税金です。

不動産を取得から5年を超えて長期所有した後に売却すると、売却益にかかる譲渡所得税の税率を抑えられ、節税することができます。

譲渡所得税は下記のような計算式で算定されます。

譲渡所得税の算出方法

譲渡所得税 = 譲渡所得 × 税率

譲渡所得=譲渡価額(売却価格)-取得費-譲渡費用(売却費用)

この譲渡所得税の税率は、不動産の保有期間5年を境に下記のように異なります。

譲渡所得の税率の違い

不動産譲渡時の税率の保有期間による違い

  • 【5年以内】短期譲渡所得の税率:39.63%(所得税
    30.63%
    住民税
    9%)
  • 【5年超】長期譲渡所得の税率:20.315%(所得税
    15.315%
    住民税
    5%)

不動産取得から5年以内に売却すると「短期譲渡所得」として税率39.63%かかるのに対して、5年を超えて売却すると「長期譲渡所得」の税率20.315%と、短期譲渡の半分の税率ですみます。長期譲渡所得の場合は、税率が約半分となり、短期譲渡の場合に比べて節税が可能です。

特定事業用資産の買換え特例で納税の先延ばしも可能

マイホームなど自用の不動産を売却する場合には、3,000万円特別控除や居住用財産の買換え特例などを利用することができますが、これらの優遇措置は投資用の物件には適用できません。

ただし、代わりに特定事業用資産の買い替え特例を活用できます。

特定事業用資産の買換え特例とは、必要要件を満たした事業用資産を売却して一定の事業用資産に買換えた場合、譲渡利益の80%について課税の繰り延べができるというものです。事業用資産には貸家のほか駐車場も含まれます。

特定事業用資産の買い替え特例は、譲渡所得税の負担が大きいと思われる場合に、一時的に税負担を軽減するために利用できる特例措置です。

ただし、これは税金が免除されるものではなく、単に繰り延べである点に注意が必要です。例えば、買換え後に、課税を繰り延べた事業用不動産を急に売却することになった場合には、そのタイミングで繰り延べた税金の支払いが一気に発生するので注意しましょう。

不動産投資で節税を気にしすぎるあまり起こる失敗例

不動産投資の節税効果についてお伝えしました。

相続税以外の節税効果は、不動産投資をするうえでの副次的なものであるため、投資の主目的とするのは適切でないといえるでしょう。

節税効果よりインパクトの大きい空き室リスクや売却リスクに注意を払うことの方が重要です。実際のところ、不動産投資で節税を意識するあまりに失敗してしまうケースも少なくありません。以下ではそうした失敗例について紹介します。

節税効果を気にするあまりに赤字になるような不動産投資をしてしまう

「不動産投資は損益通算で節税できる」という言葉はさまざまなところで聞かれます。しかし、不動産投資の損益通算で節税できるのは、不動産所得が赤字となった場合です。

損益通算で節税効果を出そうとして、所得がマイナスとなるような投資を行ってしまい、節税効果以上の損失を出してしまっているケースがあります。

節税効果はあくまで投資の副次的なものと捉えて、収益性の高さや空き室リスクの低さなどを重視して不動産投資に取り組むことが大切といえるでしょう。

節税効果のセールストークを鵜呑みにして勧められるがままに不動産投資をしてしまう

「節税ができる」というセールストークを鵜呑みにしてしまい、不動産販売会社や知人に勧めらるがままに不動産投資をしてしまって失敗するケースもあります。

例えば「中古物件の方が節税効果が高い」などのセールストークに気を取られて、勧められるままに中古物件を選んだものの思うように収益が上がらないといったケースです。老朽化が進んでいてメンテナンス費用がかかりすぎたり、入居者がなかなか確保できずに収入が得られなかったりして失敗することがあります。

節税効果のセールストークに振り回されずに、空き室リスクや諸経費についても冷静によく検討して物件を選ぶことが大切です。

節税効果があまり得られないのに節税目的で投資を始めてしまう

不動産投資は相続税の節税効果が高いものの、基礎控除額を上回る現預金の財産がない人にとっては、相続税の節税効果はほとんどありません。

また、損益通算による所得税の節税効果の影響を受けやすいのは、課税所得が900万円以上の所得税率が33%などと高く、税率を下げる効果が見込める場合です。課税所得が900万円未満の場合など、税率を下げることが難しい課税所得の水準の場合は、それほど大きな効果は見込めないこともあります。

節税効果が得られない資産額や所得であるのに、節税目的で投資を始めても節税効果を得られないという失敗に陥ることもあるため注意しましょう。

まとめ

不動産投資の税金と節税についてお伝えしました。

不動産投資にはさまざま節税方法があるものの、特に効果が比較的得られやすいのは、相続税と所得税です。

相続税では、相続税の基礎控除額「3,000万円+(600万円×法定相続人の数)」を上回る相続財産があり、法定相続人が配偶者のみでない人の場合、節税効果が期待できます。

相続税の節税効果が望める場合は、その節税効果を意識しつつ、年金にプラスアルファの収入を与えてくれるものとして不動産投資の活用を考えることがおすすめです。

所得税では、課税所得が900万円以上1,800万円未満の所得層など、不動産所得の赤字の損益通算で、課税所得の水準が一段下がり税率が大幅に下がる可能性の高い人の場合、特に効果的です。

ただし、所得税の場合は、不動産投資が赤字であることを前提とした節税効果のため、高い節税効果を見込めるからといって、これを目的に不動産投資を始めることは賢明でないといえるでしょう。

節税効果がそれほど見込めない場合には、不動産投資にこだわらず、投資信託など他のミドルリスクミドルリターンの選択肢と比較し、冷静に投資対象を選ぶことがおすすめです。

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前川心

フリーライター

大阪大学経済学部を卒業後、ビジネス系出版社で主に株式投資・企業情報・景気動向に関する情報誌のリサーチ・編集業務を担当。独立後は投資・不動産・転職分野を得意とするWEBライター、インタビューライターとして活動。金融投資メディアやビジネス系メディア、不動産メディアで解説記事を多数執筆。

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REIT

「Real Estate Investment Trust」の略。投資者から集めた資金で不動産への投資を行い、そこから得られる賃貸料収入や不動産の売買益を原資として投資者に配当する商品で、一般的に「不動産投資信託」と呼ばれている。 投資者は、REITを通じて間接的に様々な不動産のオーナーになり、不動産のプロによる運用の成果を享受することが可能。

J-REIT

Japanese Real Estate Investment Trustの略。日本版REITとも称される日本で組成されたREIT(不動産投資信託)のこと。投資家から集めた資金で購入した不動産を運用し、その賃貸収入や売買益等をもとに投資家に分配する金融商品で、もともと米国で誕生したが、その仕組みが日本のREITと米国のREITでは異なる点もあるため区別してJ-REITと呼ばれている。

インカムゲイン

インカムゲインとは資産運用で得られる収益の中で、資産を保持することで継続的に受け取れるもののこと(対義語:キャピタルゲイン)。株式の配当金、債券での利子、投資信託の分配金、不動産で賃貸することで受け取れる家賃収入などがこれに当たる。

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