金投資は危険?投資信託も純金積立も「やめとけ」と言われる理由や仕組みを解説
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公開:
2025.01.07
更新:
2025.01.29
金価格の上昇が続いており、メディアなどで金投資の話題を目にする機会が増えています。
「安定資産としての金」といわれる一方で、「金投資はやめとけ」「純金積み立ては意味がない」といったネガティブな意見が散見されます。これらはどのような根拠に基づいているのでしょうか?
金投資というと、「金の延べ棒を購入する」というイメージがあるかもしれません。しかし、実際に金へ投資する方法はいくつも存在します。
本記事では金投資に対するネガティブな意見や注意点をご説明したあとに、金投資の具体的な方法や、金投資のメリット・デメリットなどを解説していきます。金投資について全体像を把握したうえで投資判断をする一助になれば幸いです。
「金投資はやめとけ」と言われる理由
近年の株式市場の上昇やインフレもあり、金融商品への投資に抵抗感を抱く方はそれほど多くないと言えます。価格変動リスクのある株式投資を敬遠する方であっても、リスクが低い国債への投資なら、抵抗感はあまりないでしょう。
しかし金への投資に対しては、よく分からないからやめておいたほうがよいのではないか?、との第一印象を抱く方が多いのではないでしょうか。投資を行う際は、投資対象への正しい理解が必要です。リスクを正しく知り、正しく恐れる必要があります。
特に注意したい金への現物投資のデメリット
かつては金融商品の売買時でも、株式や債券などの現物が必要でしたが、現在は電子化により投資家が現物の金融商品を見る機会はほとんどありません。しかし現物の金は、金そのものに投資するため、金を保管する必要があります。投資金額が多額となれば、金の保管のために金庫を備える・銀行の貸金庫を借りるなどの必要があります。簡単に言えば、現物の金を持つと保管に手間とコストがかかります。
購入価格と売却価格の差額(スプレッド)が大きい
また金には、購入価格と売却価格に一定の差額(スプレッド)が設けられていることがほとんどです。スプレッドは実質的な手数料であり、現物の金への投資は手数料が高くなるため、若干の値動き程度では利益を上げるのは困難です。このため現物の金への投資は、基本的に長期視点で大きな値上がりを待つ投資となります。
金の価格は一定ではなく日々変動する
金価格は日々変動しています。よって株式などと同様に、投資後の値動きで利益が出る可能性がある反面、損失に陥る可能性もあります。株式投資の株価変動リスクはほとんどの方が理解しています。しかし金も同様に価格変動リスクがあります。金の延べ棒の所有でも価格変動リスクは避けられない、という点は十分な認識が必要です。
金投資の仕組みと方法
金は株式や債券などの有価証券への投資とは異なり、コモディティ(商品)投資に分類されます。ただし後述しますが、金融商品としての投資もできるユニークな存在です。
コモディティ投資の対象は非常に幅広く、金、・銀・プラチナ(白金)・銅といった金属、原油・天然ガスなどのエネルギー、小麦・綿花・大豆・コーヒーなどの農産物があります。その中でも、金はコモディティを代表する投資対象です。
また金は金の延べ棒を始めとする金地金、金貨、純金積み立てなどの現物に加えて、投資信託やETFの金融商品としても購入可能です。金と同じ値動きを目指すETFや投資信託があるため、それらの購入で擬似的な金の保有ができます。
次に金を現物資産として投資する際と、金融商品として投資する際の具体的な方法を解説します。
金を専門業者から現物購入する場合
金融商品は証券会社などの金融機関で購入しますが、金の現物は専門事業者で購入するのが一般的です。金に投資する際、金の現物を購入する方法としては以下があります。
1.金地金
2.金貨
3.純金積立
以下でそれぞれについて詳しく説明します。
1.金の延べ棒など「金地金(きんじがね)」
金地金は純度99.99%の高純度な金で作られた金の塊です。金の延べ棒は金地金の1つです。他にも、金インゴットやゴールドバーと呼ぶこともありますが、すべて高純度の金塊であることは一緒です。
大きいものは金の延べ棒となりますが、5gなどの単位でも購入もできるため、金地金であっても少額投資が可能です。金地金は購入後、自宅での保管が必要であり、多額の場合は防犯の観点から金庫などの用意が欠かせません。
2.金貨(地金型金貨)
金貨は各国の造幣局が発行する投資用の純金で作られた硬貨です。有名なものに、カナダ政府発行の「メープルリーフ金貨」、オーストラリアの「カンガルー金貨」、オーストリア(オーストリー)の「ウィーン金貨」が有名です。
金貨も金地金同様に自宅保管ができます。また、過去に発行された金貨はアンティークコインとして、希少価値から金自体の価格を大きく上回る価格で取引されるものもあります。ただしアンティークコインは、金の含有量の低いコインもあるため注意が必要です。なお、金貨も専門事業者での購入が一般的です。
3.純金積立
最後に純金積立と言われる、投資信託などの継続積み立てと同様の、金の積み立て投資サービスを提供する事業者もあります。継続的に同じ金額の購入を行うドルコスト平均法で、長期的に見て保有価格を優位にできます。また純金積立は事業者側で金の保管ができるため、投資家には保管リスクがない点もメリットです(引き出しも可能)。
上記の金地金、金貨、純金積立が金の現物投資の一般的な形です。更に百貨店の催事などで販売される金の置物などの購入も、金の現物投資と考えることもできます。また近年はオンラインで金地金などの販売を手掛ける事業者も増えています。
金融商品を通じた投資
金はコモディティに分類されますが、金融商品としての取引も可能です。金価格に連動するETFや投資信託が多数組成されており、それらへの投資で金融商品として金の取引ができます。
ETFや投資信託であれば、金であっても投資のメンタル的なハードルが低くなる、という特徴があります。なお、金のFTFの中には投資家が投資分の金の引き出し権を持つユニークな設計のものもあります。
金への現物投資と金融商品投資の比較
金は現物投資に加え金融商品としての投資もできますが、両者には様々な違いがあります。特に大きく異なるのは売却時の税金です。以下では現物投資、金融商品としての投資、それぞれで売却益が出た場合の税金の取り扱いについて解説します。
現物取引と金融商品取引の税の違い
現物の金投資で売却益が出た場合は、売却益は総合課税となります。総合課税は本業の収入に金の売買益が合算されて税額が決定されます。よって、税率は本業の収入により大きく異なりますが、具体的には下記です。
課税される所得金額 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
1,000 ~ 1,949,000円 | 5% | 0円 |
1,950,000 ~ 3,299,000円 | 10% | 97,500円 |
3,300,000 ~ 6,949,000円 | 20% | 427,500円 |
6,950,000 ~ 8,999,000円 | 23% | 636,000円 |
9,000,000 ~ 17,999,000円 | 33% | 1,536,000円 |
18,000,000 ~ 39,999,000円 | 40% | 2,796,000円 |
40,000,000円 ~ | 45% | 4,796,000円 |
出典:国税庁(https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/2260.htm)
一方、金融商品として金の取引を行い売却益が出た場合は、以下の通常の金融商品と同様の税率となります。
・所得税15% + 復興特別所得税0.315% + 地方税5% = 20.315%
金投資を行う際、課税所得金額が900万円を超える方は、現物より金融商品としての投資が税制面では有利となる可能性が高くなります。更にNISA口座で金のETFへ投資を行えば、売却益に対する税金をゼロとすることも可能です。
税金以外の金投資を行う際に気をつけたい現物投資と金融商品の違い
金の現物投資と金融商品としての投資では、税金以外にも様々な違いがあります。具体的にそれぞれ解説します。
①リスクと安全性:現物は盗難の危険性あり
現物の場合は手元で金を保有するため盗難リスクがあります。また盗難リスクを避けるために、金庫の購入や銀行の貸金庫の契約など保管コストをかけて安全性の確保が必要です。その点、金融商品の場合は、保管コストがかかりません。ETFなどを運用する運用会社の信用リスクはありますが、運用会社は自社の資産と運用資産の分別管理の徹底を当局から求められており、仮に運用会社が破綻した場合でも、投資資産はほとんどの場合で保全されます。
②流動性:現物は業者取引とスプレッドに注意
現物は売却時に買い取り業者との取引となるため、業者の提示する価格での取引となります。このため参考となる市場価格はあるものの、希望する市場価格で売却できない流動性リスクがあります。また現物取引は買値と売値の差額(スプレッド)が広いため、差分が実質的なコストとして上乗せされます。金融商品の場合は、ETFなら市場価格での取引です。また投資信託でも毎日価格が設定されるため、価格に裁量が入る余地はありません。
③コスト構造:現物は保管・売買など手数料が割高
現物では保管コストの発生に加えて、売買の手数料も発生します。売買時の手数料は事業者により異なりますが、概ね1~3%です。現物資産の取引は人手を介するため、コスト構造的に金融商品の売買手数料と比べ割高にならざるを得ません。またスプレッドもあるため、現物投資はコスト面で金融商品の投資に比べると不利です。ただし、金のETFや投資信託にも信託報酬などの手数料(0.2~0.4%)は発生します。現物の売買手数料や保管料に比べれば非常に低い水準ながら、金融商品の場合も手数料が生じる点は注意しましょう。
④最小投資額:現物は少なくとも数万円から
現物は5gから取引できますが、その場合でも数万円の資金が必要です。一方、金融商品の場合は、数千円単位で取引できます。現物でも数万円から取引できるものの、取引の手軽さという観点では、数千円単位で取引できる金融商品のほうが取引しやすいと言えるでしょう。
⑤価格追従性:現物は金価格が直接反映
現物は金価格の動向がストレートに反映されます。よって一般的に金価格が上昇の際は上昇、下落の際は下落する価格追従性が高く、価格変動が分かりやすいです。一方、金融商品は商品の性質や運用方針により価格が異なります。例えばドル建ての金価格と円建ての金価格は値動きが異なります。ドル建ての金価格が上昇の際も、円建ては動いていないなどのケースが生じます。金融商品として金を購入する際は、購入するETFや投資信託が金の何の価格を参照しているか、事前確認が必要です。
金投資のメリットとデメリット
これまで金投資について、現物投資と金融商品としての投資の相違点などを解説しました。
次は、現物投資か金融商品かに関係なく、金投資が持つメリットとデメリットを解説します。
金投資のメリット
「有事の金」と言われるだけあり、金投資は伝統的に安定資産として活用されてきました。
金投資の代表的なメリットは、「インフレヘッジ」「経済的不確実性への対応」「ポートフォリオ分散」「長期的な資産保全」の4つが挙げられます。
以下でそれぞれのメリットについて解説します。
①インフレヘッジ:インフレ期には金価格も上昇傾向
金は物価上昇するインフレ期は価格が上昇する傾向にあります。インフレ期は、時間の経過とともに現金の価値が減少します。物価の上昇と共に価格上昇が見込まれる金への投資で、インフレの影響から資産を守るインフレヘッジ効果が期待できます。
②経済的不確実性への対応:安定資産としての金の信頼性
古くから投資対象として認知され、現物資産としての価値もある金は、金融市場が不安定なリスク回避状態の際に買われる傾向にあります。株式市場の急落時は、株式を売って金を買う、というリスク回避の流れが生じるため、金への投資は経済的不確実性に対応することにもつながります。
③ポートフォリオ分散:安定資産のため市場が不安定な際に値上がり傾向
現物資産である金は、株式や債券などの金融商品とは異なる値動きを見せることが多いです。また上述の通り、金融市場がリスク回避にある際は、金が買われる傾向があります。このため運用ポートフォリオの一部に金を組み入れることで、株式市場の急落時などにポートフォリオの毀損リスクを緩和させる効果が期待できます。
④長期的な資産保全:金価格の長期トレンドは価格上昇
長期的な視線で見れば金価格は上昇を続けています。金も金融商品と同様に日々の価格変動があるものの、長期間の保有で価格上昇の恩恵を得られる可能性が高いです。インフレヘッジ機能と合わせて、金の長期投資は資産の保全効果及び長期投資による価格上昇の恩恵が期待できます。
金投資のデメリット
「有事の金」ということは、平時には金投資の優位性がそこまで高くない、ということの裏返しでもあります。
金投資の代表的なデメリットは「インカムゲインがなく、利回りが安定しない」「流動性リスクが高い」ことです。
これらにデメリットついて以下で説明します。
①インカムゲインがなく、利回りが安定しない
株式には配当金、債券には利息など、多くの金融商品は保有するだけで得られるインカムゲインがあるケースが多いです。一方、金は長期保有しても継続的に得られる収益がありません。
このため、金は売買益目的の保有となります。どのような金融商品であっても、売買差益は売買が完結しなければ結果は分かりません。ただしインカムゲインがあることで、投資利回りが安定する一面もあります。
金をはじめとするコモディティは、投資しても継続収益がないため、利回りが安定しないというデメリットがあります。
②特に現物は流動性リスクが高い
特に現物の金については、売りたい時に売りたい価格で売れないリスク、いわゆる流動性リスクもあります。事業者との相対取引となる現物の金は、事業者が提示する価格で取引がなされます。想定価格より割安の価格で買い取り価格が提示される可能性も否定できません。
金投資ができる代表的投資信託・ETF
金融商品として金に投資できる投資信託やETFとしては以下があります。
金投資ができる投資信託の例
金投資ができる投資信託には、日興アセットマネジメントの「ゴールド・ファンド」や三菱UFJアセットマネジメントの「三菱UFJ純金ファンド」があります。両者ともにETFなどへの投資を通じて金の現物を裏付け資産としています。
ゴールド・ファンド(為替ヘッジなし/あり)-日興アセットマネジメント
項目 | ゴールド・ファンド (為替ヘッジなし) | ゴールド・ファンド (為替ヘッジあり) |
---|---|---|
運用会社 | 日興アセットマネジメント | 日興アセットマネジメント |
設定日 | 2017年7月31日 | 2017年7月31日 |
信託終了日 | 無期限 | 無期限 |
購入時手数料 | 2.20%(税込) | 2.20%(税込) |
信託報酬 | 年率0.407% | 年率0.407% |
信託財産留保額 | なし | なし |
基準価額 | 27,591円(2024/12/17時点) | 15,596円(2024/12/18時点) |
純資産総額 | 約507億円(同上) | 約155億円(同上) |
2017年7月31日に設定された追加型投信/内外/その他資産(商品)です。主にゴールド・マザーファンドを通じて、金地金価格への連動をめざす上場投資信託証券に投資を行います
三菱UFJ 純金ファンド-三菱UFJアセットマネジメント
ファンド名 | 三菱UFJ 純金ファンド (愛称:ファインゴールド) |
---|---|
運用会社 | 三菱UFJアセットマネジメント |
設定日 | 2011年2月7日 |
信託終了日 | 無期限 |
購入時手数料 | 0%(ノーロード) |
実質信託報酬 | 年率0.99%(税込) |
信託財産留保額 | なし |
基準価額 | 31,556円(2024/12/19時点) |
純資産総額 | 2,756億円(同上) |
三菱UFJ純金ファンドは三菱商事が信託委託者として拠出した金の現物を、三菱UFJ信託銀行が国内で保管しています。大阪取引所における金1グラムあたりの先物価格をもとに現在価値として算出した理論価格を使用しています。2011年2月7日に設定され、無期限の信託期間となっています。
金投資ができるETFの例
金投資のできるETFには以下のような銘柄があります。
・SPDRゴールド・シェア<1326>
・NEXT FUNDS 金価格連動型上場投信<1328>
・純金上場信託(現物国内保管型)<1540>
・WisdomTree 金上場投資信託<1672>
上記のうちSPDRゴールド・シェア、純金上場信託、WisdomTree 金上場投資信託は金の現物を裏付け資産としています。また純金上場信託は、一定の口数以上を持つことで、金の現物の受け取りも可能です。このため継続的に投資及び保有を行い、一定期間経過後に金の引き出しをして現物を保有する、という現物と金融商品をミックスさせた金投資もできます。
また、NEXT FUNDS 金価格連動型上場投信は金の先物取引を利用して、金価格との連動を目指す商品設計です。
なお、米国にも金のETFが複数存在しており、米国ETFを通じてドル建てで金投資を行うことも可能です。
まとめ
2024年は金価格が上昇しており、金投資に興味を持つ方が増えています。多くの方は金=金地金の投資というイメージを持っているものの、金は株式や債券などの金融商品とは異なり、様々な投資手段があります。
金は金融商品としても投資できるユニークな現物資産です。また現物でも数万円、更にETFや投資信託としてなら数千円から投資可能です。
金投資に興味を抱いたなら、金投資のメリットとデメリットへの理解に加えて、現物と金融商品の選択肢があるという、2つの注意点をまずは知っておきましょう。
石井僚一
金融・投資ライター
大手証券グループ投資会社への勤務を経て、個人投資家・ライターに。株式関連、為替関連、資産運用関連を中心に執筆中。Yahoo!トップページに掲載実績あり。第一種証券外務員資格保有。
大手証券グループ投資会社への勤務を経て、個人投資家・ライターに。株式関連、為替関連、資産運用関連を中心に執筆中。Yahoo!トップページに掲載実績あり。第一種証券外務員資格保有。
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コモディティ
コモディティは、貴金属(金・銀・銅など)、エネルギー(原油・天然ガスなど)、農産物(コーン・大豆・砂糖・小麦など)など、一般的に先物取引市場に流通する商品のことを指します。
オルタナティブ投資
オルタナティブ(Alternative)投資とは、代替投資という意味で、伝統的資産(債権や株式)以外の代替資産(不動産・コモディティ・ベンチャーキャピタル・貴金属・仮想通貨など)に対する投資のこと。オルタナティブ投資のメリットとしては、ポートフォリオに組み込むことによってリスク分散が期待できること、投資対象や手法の選択肢が増えることなどが挙げられる。
アクティブ運用
アクティブ運用とは、投資信託を選ぶ際の運用手法の一つ(対義語:パッシブ運用)。比較のために用いる指標であるベンチマーク(日経平均やNASDAQなど)を上回る成績を目指す運用手法。アクティブ運用にはトップダウンアプローチとボトムアップアプローチという2つの手法が主に用いられる。トップダウンアプローチは市場全体を俯瞰して投資環境の予想から投資対象を決める手法で、ボトムアップアプローチは選択する企業に個別に調査や訪問をして投資対象を決める手法である。アクティブ運用はパッシブ運用に比べて高いリターンが望めるがその分リスクも大きいという特徴がある。